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DX推進のKPI|目標設定と企業価値を高める活用の手順
DX推進におけるKPIの役割から、KGIとの関係、財務・非財務指標のバランス、具体的な設定手順、失敗を避けるための運用方法までを網羅的に解説。データに基づいた評価で、企業価値向上を実現するための実践ガイドです。
目次
DXは、多くの企業にとって経営の重要課題となっていますが、その進捗や成果を適切に測定できている企業は決して多くありません。「投資対効果が見えない」「現場のモチベーションが続かない」「何をもって成功とするかが曖昧」といった課題は、すべて適切な評価指標(KPI)の設定と運用が不足していることに起因します。
DXは長期にわたる変革プロセスであるため、財務的な結果指標だけでなく、組織の変化やプロセスの改善を測る指標が必要です。本記事では、DXにおけるKPIの役割と構造、具体的な指標例、そして戦略と連動した目標設定の手順について、実践的な視点から解説します。
DXにおけるKPIの役割とは
DXを推進する上で、KPI(重要業績評価指標)は単なる「目標数値」以上の重要な役割を果たします。DXは、デジタル技術を用いてビジネスモデルや企業文化を変革する長期的な取り組みですが、その道のりは不確実性に満ちています。
KPIは、企業が掲げる「DXビジョン」という最終目的地(KGI)に対し、現在地がどこにあり、正しいルートを進んでいるかを示す「羅針盤」のような役割を担います。適切なKPIを設定することで、経営層と現場が共通のゴールを認識し、戦略からの逸脱を早期に検知・修正することが可能になります。
また、限られたリソース(ヒト・モノ・カネ)をどの施策に優先配分すべきかという投資判断の根拠としても機能します。つまり、DXのKPIは変革を管理し、推進力を維持するためのマネジメントツールとして不可欠なのです。
KGI(最終目標)とKPI(中間指標)の階層構造
DXの評価指標を設計する際は、KGIとKPIの階層構造を明確にする必要があります。KGIは、企業価値の向上や市場シェアの拡大といった、DXによって達成すべき最終的な成果(ゴール)を示します。
一方、KPIは、KGIを達成するために必要なプロセスや活動が順調に進んでいるかを測る中間的な指標です。例えば、KGIが「デジタルサービスによる売上10億円」であれば、KPIは「サービス利用者数」や「開発リードタイム」などが該当します。
KPIはKGIを達成するための先行指標として機能し、両者が論理的かつ因果関係を持って結びついていることが重要です。この構造が崩れると、現場の活動が最終目標に貢献しないという事態に陥ります。
変革の進捗を見える化するDXの評価指標の役割
DXの成果は、売上や利益といった財務諸表上の数字に現れるまでに時間がかかるのが一般的です。そのため、財務指標だけで評価しようとすると、初期段階では「成果が出ていない」と判断され、プロジェクトが縮小・中止に追い込まれるリスクがあります。
ここで重要となるのが、変革の過程や質的な変化を測る「非財務KPI」です。例えば、「従業員のデジタルスキル習得率」や「データ活用プロジェクトの件数」といった指標を設定することで、組織内部で確実に起きている変化や努力を見える化することができます。
これにより、短期的な財務成果が見えにくい時期でも、現場のモチベーションを維持し、経営層に対して変革が進んでいることを客観的に示すことが可能になります。
DXで目指す成果と従来の業務指標(KPI)との違い
従来の業務改善におけるKPIは、「コスト削減」「作業時間の短縮」「エラー率の低減」といった、既存業務の効率化(守りの視点)に主眼が置かれていました。
これに対し、DXにおけるKPIは、「新しい顧客体験の創出」「ビジネスモデルの変革」「組織のアジリティ向上」といった、価値創造や変革の成功度(攻めの視点)を測定対象とします。
単に今の仕事を早く安くすることではなく、デジタル技術を使って「何を実現したか」「どのように変わったか」を問う指標が必要です。
また、DXのKPIには、失敗を恐れず挑戦した回数や、部門を超えた連携の頻度といった、組織文化やマインドセットの変化を測る要素も含まれるべきです。従来の延長線上にある指標だけでは、破壊的な変革を正しく評価することはできません。
DX評価体系の策定
DXの評価体系を策定する際には、「財務指標(結果)」と「非財務指標(プロセス・将来性)」のバランスを戦略的に設計することが極めて重要です。多くの企業が陥りがちな罠は、短期的な売上やコスト削減といった財務指標のみを重視し、中長期的な競争力の源泉となる組織能力や顧客基盤の強化を軽視してしまうことです。
DXを成功させるためには、財務的な成果を最終ゴール(KGI)としつつ、そこに至るまでの道筋を示す非財務的な指標(KPI)を多角的に設定する必要があります。
具体的には、経済産業省の「DX推進指標」なども参考にしながら、「財務」「顧客体験」「組織・文化」「IT・プロセス基盤」の4つの視点をバランスよく組み合わせた評価体系を構築することが推奨されます。
財務成果を測るKGI/KPI(結果指標)
DXの最終目的は企業価値の向上であり、これを測るためには具体的な財務指標が不可欠です。KGIとしては、「デジタル事業の売上高」「営業利益率」「ROE(自己資本利益率)」「時価総額」などが設定されます。
また、よりDXに特化した財務KPIとしては、以下が挙げられます。
新規デジタルサービスからの売上比率
EC化率
デジタルチャネル経由のLTV(顧客生涯価値)
業務プロセス自動化によるコスト削減額
これらの指標は、DX投資に対するリターン(ROI)を定量的に示し、株主や投資家に対する説明責任を果たすために重要です。ただし、前述の通りこれらは遅行指標であるため、これらのみを管理しても、途中経過での軌道修正は困難であることを理解しておく必要があります。
顧客体験の変革を測る非財務KPI
DXの本質は、デジタル技術を活用して顧客に新たな価値を提供することです。顧客体験(CX)の変化を測る非財務KPIは、DXの成否を握る重要な指標となります。
具体的には、以下が挙げられます。
NPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)
CSAT(顧客満足度)」
アプリのアクティブユーザー数(MAU/DAU)
解約率(チャーンレート)
カスタマーサービスの応答速度
また、「顧客からのフィードバック反映件数」や「デジタルチャネルへの移行率」なども有効です。
これらの指標は、提供しているサービスが顧客に受け入れられているか、顧客ロイヤルティが高まっているかを直接的に示します。CX指標の向上は、将来的にはLTVの向上や解約防止といった財務成果に結びつく「先行指標」として機能します。
組織・文化の変革を測る非財務KPI
持続的なDXを推進するためには、組織のマインドセットや文化そのものを変える必要があります。しかし、文化のような定性的な要素を定量化するのは容易ではありません。ここでは、行動変容や能力向上に着目した指標を設定します。
例えば、「データ分析ツールの利用頻度」「データに基づく意思決定が行われた会議の割合」「DX人材の育成数・認定数」「社内ハッカソンへの参加人数」「失敗を許容する風土に関する従業員サーベイのスコア」などです。
また、「部門横断プロジェクトの数」や「アジャイル開発手法の適用率」といった指標も、組織の柔軟性や連携力を測る上で有効です。組織・文化の指標は、DXの土台となる「組織能力(ケイパビリティ)」が強化されているかをモニタリングするために不可欠です。
IT・プロセス基盤を測るKPI
迅速なビジネス展開を支えるITインフラや開発プロセスの成熟度を測る指標も重要です。レガシーシステムからの脱却やクラウド活用が進んでいなければ、DXの足かせとなるからです。
具体的なKPIとしては、以下のような指標が挙げられます。
クラウド利用率
APIによるシステム連携数
システム開発のリードタイム(Time to Market)
デプロイ頻度
システムの稼働率・安定性
セキュリティインシデントの発生件数
また、「レガシーシステムの廃棄・刷新進捗率」や「データ整備状況(データカタログの充実度)」なども、DX推進の基盤が整っているかを評価する上で重要な指標となります。これらの技術的負債の解消とモダンな環境への移行状況を測ることは、将来的なアジリティを確保するための先行投資の管理といえます。
DX評価指標の設定手順と成功の原則
効果的なDX評価指標を設定するためには、単に他社の真似をするのではなく、自社の戦略に即した独自の指標を設計するプロセスが必要です。トップダウンでの目標設定と、ボトムアップでの実現可能性検証を組み合わせ、組織全体が納得できる指標を作り上げることが成功の原則です。
KPI設定は一度で完成するものではなく、運用しながらチューニングしていくものですが、初期設定の段階で論理的な整合性が取れていなければ、現場は混乱します。ここでは、経営戦略から具体的なKPIへと落とし込むための4つのステップを紹介します。
Step 1. 経営戦略とDXビジョンからのKGI設定
KPI設定の出発点は、経営戦略とDXビジョンの明確化です。「我が社はデジタル技術を使ってどのような価値を創造するのか」「3年後、5年後にどうなっていたいのか」という定性的なビジョンを、具体的な数値目標(KGI)に翻訳します。
例えば、ビジョンが「業界No.1のデジタルサービス企業になる」であれば、KGIは「デジタル経由の売上シェアNo.1」や「デジタル会員数100万人」といった具体的な数値になります。
この段階では、経営層がコミットメントを示し、全社的な合意形成を図ることが重要です。KGIが曖昧だと、その下のKPIもブレてしまい、各部門がバラバラな方向に走ってしまう原因となります。KGIは、全社員が目指すべき「北極星」として機能する明確なものであるべきです。
Step 2. 現状(AS-IS)の把握と測定可能性の検証
目標が決まったら、次は現状を正確に把握します。目指すべきKGIに対して、現在の実績値はどれくらいか、そもそもその数値を計測できるデータや仕組みがあるかを確認します。
DXの初期段階では、必要なデータが整備されておらず、計測自体が困難なケースも多々あります。このステップでは、既存のシステムや業務フローを棚卸しし、KGI/KPIの測定可能性を検証します。
もしデータが取れない場合は、「データ収集基盤の構築」自体を初期のKPIとして設定するなどの現実的な対応が必要です。計測できない指標を掲げても、それは単なるスローガンに終わってしまいます。
Step 3. 戦略テーマに基づいたKPIの多層的な設計
KGIを達成するためには、いくつかの戦略テーマが必要です。例えば「顧客体験の向上」「オペレーションの自動化」「データ活用基盤の整備」といったテーマごとに、それを測るためのKPIを設計します。
ここでは、KGIに繋がる先行指標としてのKPIを設定し、因果関係のロジックモデルを構築します。「トレーニング受講者数(先行指標)が増えれば、データ活用率(中間指標)が上がり、結果として業務効率(結果指標)が改善する」といった仮説に基づき、多層的に指標を配置します。
単一の指標に頼るのではなく、複数の指標を組み合わせることで、多面的な評価が可能になり、死角を減らすことができます。
Step 4. KPIの具体化と現場との合意形成
設計したKPIを、現場が実行可能なレベルまで具体化します。各KPIについて、「定義(何を測るか)」「計算式(どう測るか)」「データソース(どこから取るか)」「測定頻度(いつ測るか)」「目標値(いつまでにどのレベルを目指すか)」「責任者(誰が責任を持つか)」を明確に定義します。
最も重要なのが、設定したKPIについて現場の責任者や担当者と対話し、合意形成を図ることです。一方的に押し付けられたノルマではなく、現場自らが納得し、達成意欲を持てる目標にすることが、実行段階でのパフォーマンスを左右します。現場の実情を反映し、必要であれば目標値を調整する柔軟性も必要です。
DX評価指標:カテゴリ別の指標例と詳細
DXの評価指標は、企業の業種や変革のフェーズ、注力する領域によって最適なものが異なります。一律の正解はありませんが、多くの企業で採用されている標準的な指標を知ることは、自社のKPIを設計する上で有用なヒントとなります。
ここでは、前述した4つの視点(顧客体験、オペレーション、組織・文化、技術基盤)に基づき、より具体的かつ実践的な指標例を詳細に解説します。これらの指標を自社のコンテキストに合わせてカスタマイズし、導入することが推奨されます。
顧客体験(CX)変革カテゴリの指標
顧客体験の変革を測る指標は、顧客とのエンゲージメントの深さや質を評価するものです。
顧客デジタル利用率:全顧客のうち、Webやアプリなどのデジタルチャネルを利用している顧客の割合。デジタルシフトの進捗を測る基本指標です。
デジタル・タッチポイント満足度:アプリの使い勝手やチャットボットの回答精度など、デジタル接点ごとの個別の満足度。改善ポイントの特定に役立ちます。
解約率(チャーンレート)の改善:サブスクリプションビジネス等において、デジタルサービスの導入や改善によってどれだけ顧客離れを防げたかを示します。
クロスセル・アップセル率:レコメンド機能などのデジタル施策によって、追加購入や単価アップがどの程度発生したかを測ります。
オペレーション効率化カテゴリの指標
社内業務のデジタル化による効率化やスピードアップを測る指標です。
業務自動化率:RPAやAI-OCR等の導入により、人手で行っていた業務プロセスの何%が自動化されたかを示します。
サービス提供リードタイム:顧客からの注文や問い合わせを受けてから、サービスを提供するまでにかかる時間。プロセスのスピードアップを評価します。
エラー発生率の低減:手作業による入力ミスや処理ミスが、システム化によってどれだけ減少したかを測ります。品質向上と手戻りコストの削減を示します。
ペーパーレス化率:紙の使用量や、電子契約・電子申請への移行率。アナログプロセスからの脱却度合いを測る分かりやすい指標です。
組織・文化変革カテゴリの指標
組織のデジタル成熟度やマインドセットの変化を測る指標です。
DX関連トレーニング完了率:全社員や特定職種に対するデジタル教育プログラムの受講完了割合。リテラシー向上の基礎となります。
データ利用頻度:BIツールやダッシュボードへのアクセス数、データダウンロード数など、日常業務でデータが活用されている頻度を測ります。
アジャイル適用プロジェクト比率:ウォーターフォール型ではなく、アジャイル型で進められているプロジェクトの割合。開発プロセスの柔軟性を示します。
部門横断プロジェクト数:複数の部門が関与するDXプロジェクトの数。縦割り組織の打破とコラボレーションの進展度を評価します。
技術基盤強化カテゴリの指標
DXを支えるITインフラや技術環境の整備状況を測る指標です。
レガシーシステム依存度:全システムのうち、老朽化したレガシーシステムが占める割合、またはIT予算に占める維持管理費(ラン・ザ・ビジネス費用)の比率。
クラウド移行率:オンプレミス環境からクラウド環境(IaaS/PaaS/SaaS)への移行が進んでいるシステムの割合。
API公開・利用数:社内システム間や社外との連携に使用されているAPIの数。システム間連携の疎結合化とエコシステムの広がりを示します。
デプロイ頻度:ソフトウェアの更新や新機能リリースの頻度。開発・運用(DevOps)の成熟度とビジネスのアジリティを測ります。
DX評価指標の運用と計測
優れたKPIを設定しても、それが絵に描いた餅になっては意味がありません。KPIは、定期的に計測され、関係者に共有され、アクションに結びついて初めて価値を持ちます。そのためには、データを効率的に収集・可視化する仕組みと、測定結果を基にPDCAサイクルを回すための運用ルールが必要です。
KPI運用は、単なる数値管理ではなく、組織の学習プロセスそのものです。ここでは、KPIを形骸化させず、日々の経営や業務改善に活かすための具体的な運用と計測の方法について解説します。
データ収集・分析基盤の整備(デジタル・ダッシュボード)
KPIの計測を、担当者が毎月エクセルで手集計しているようでは、リアルタイムな状況把握はできませんし、集計作業自体が負担となって長続きしません。
各システムからデータを自動的に収集・統合し、グラフやチャートで視覚的に表示する「デジタル・ダッシュボード(BIツール)」を構築することが不可欠です。
ダッシュボードは、経営層向け、管理者向け、現場向けなど、階層に合わせて必要な情報をカスタマイズして提供します。誰もがいつでも最新の進捗状況を確認できる環境を作ることで、透明性が高まり、データに基づいた自律的な行動が促進されます。
測定結果のフィードバックと戦略への反映サイクル
測定されたKPIデータは、定例会議などで定期的にレビューされ、次のアクションに繋げる必要があります。目標値と実績値に乖離がある場合、なぜ未達なのか、あるいはなぜ大きく上振れしたのか、その原因を分析します。そして、必要に応じて施策の修正、リソースの再配分、あるいは目標値自体の見直しを行います。
この「測定→分析→行動」のフィードバックサイクルを、月次や四半期ごとではなく、週次や日次といった短いサイクルで回すことが、DXにおけるアジリティを高める鍵となります。悪い結果も含めて迅速に共有し、対策を打てる体制を作ることが重要です。
KPIの定期的な見直しと陳腐化の防止
ビジネス環境やDXの進捗フェーズは常に変化します。そのため、一度設定したKPIが永遠に正しいとは限りません。初期段階では「導入数」や「研修受講率」が重要でも、普及段階では「活用率」や「成果創出額」へと重視すべき指標が変わっていきます。
また、目標を達成して役割を終えたKPIや、現場の行動を歪める副作用が出ているKPIは、速やかに廃止・変更する必要があります。
最低でも半年に一回、あるいは四半期ごとにKPIそのものの妥当性をレビューし、現状の戦略に合わせてアップデートし続けることで、KPIの陳腐化を防ぎ、常に意味のある指標を追いかけることができます。
DX評価指標とデジタルガバナンスへの組み込み
DX評価指標は、企業のデジタルガバナンスを機能させるための重要な構成要素です。ガバナンスとは、リスクを管理しながら組織のパフォーマンスを最大化するための仕組みですが、客観的な数値基準(KPI)がなければ、適切な統治は不可能です。
KPIをガバナンス体制に組み込むことで、投資判断の適正化や、組織全体の規律維持、そして従業員の動機付けを強化することができます。ここでは、KPIを活用してどのようにデジタルガバナンスを効かせ、組織全体をDXの方向へ導いていくかについて解説します。
ガバナンス体制におけるKPIの役割
DX推進組織(CoEやDX推進室)は、KPIのモニタリング結果を基に、各事業部門のDXプロジェクトを評価・監督します。順調に進んでいるプロジェクトには追加予算を配分し、成果が出ていないプロジェクトには改善勧告や中止判断を下すといった、ポートフォリオ管理の判断基準としてKPIを活用します。
これにより、声の大きい部門や担当者の思い付きによる無駄な投資を抑制し、全社戦略と整合性の取れた投資実行を担保します。KPIは、経営層と現場、あるいは部門間の共通言語となり、感情論ではないデータに基づいた建設的な対話と意思決定を可能にするガバナンスツールとなります。
KPI達成に向けたインセンティブ・評価制度の設計
KPIを達成しようとする現場のモチベーションを高めるためには、KPIと人事評価・報酬制度を連動させることが有効です。
DXへの取り組みや成果(KPI達成度)を、個人の業績評価やボーナス査定に明確に組み込みます。特に、短期的な財務成果が出にくいDXプロジェクトにおいては、プロセス指標や行動変容(チャレンジしたこと、失敗から学んだことなど)を評価する仕組みを取り入れることが重要です。
また、優れた成果を上げたチームを表彰するアワード制度などを設け、非金銭的なインセンティブも活用することで、組織全体にDX推進の機運を醸成し、変革文化を定着させていきます。
DXの指標設定に失敗する要因と回避策
DXのKPIの設定には、いくつかの典型的な失敗パターンが存在します。これらに陥ると、KPIが形骸化するだけでなく、現場の混乱や士気の低下、最悪の場合はDXプロジェクト自体の頓挫を招きかねません。
失敗の多くは、設計段階での考慮不足や、データ基盤の未整備、そして現場心理への配慮不足に起因します。ここでは、よくある3つの失敗要因と回避策について解説します。これらを事前に理解し、対策を講じておくことで、意味のあるKPI設定と健全な運用が可能になります。
戦略と関係のない「計測しやすい」KPIの設定
最も多い失敗は、本来測るべき重要な指標ではなく、単にデータが手元にあり簡単に集計できる指標をKPIにしてしまうことです。
例えば、本来は「顧客エンゲージメント」を測るべきなのに、測定が簡単な「PV数」や「メルマガ配信数」だけを追いかけてしまうケースです。これでは、数値は達成してもビジネス成果に繋がらないという「手段の目的化」が起こります。
回避策としては、常に「KGI(最終目標)との因果関係」を問い直すことです。測定が難しくても、真に重要な指標であれば、アンケート調査や新ツールの導入など、測定するための方法を模索すべきです。
測定に必要なデータ基盤の準備不足
立派なKPIツリーを作成しても、そのデータを取得するためのシステムや仕組みがなければ計測できません。「毎月の集計作業に数日かかる」「データが各部署に散在していて統合できない」といった状態では、タイムリーなモニタリングは不可能です。
回避策としては、KPI設計の段階で「データソースの有無」と「取得難易度」を必ず確認することです。そして、必要なデータが取れない場合は、DXプロジェクトの初期フェーズにおいて、DWH(データウェアハウス)やBIツールの導入といったデータ基盤整備を優先タスクとして組み込む必要があります。
悪しきKPIによる現場の行動抑制
KPIの設定次第では、現場の行動が意図しない方向へ歪められることがあります。例えば、「システム開発のエラー率ゼロ」を厳格なKPIにすると、現場は失敗を恐れて新しい技術への挑戦を避け、無難な改修しかしなくなる可能性があります。
また、「一人当たりの処理件数」だけを重視すると、丁寧な顧客対応が疎かになり、CSが低下するかもしれません。
回避策としては、単一の指標で評価せず、質と量、効率と満足度といった相反する指標をセットで設定し、バランスをとることです。また、減点方式ではなく、加点方式の評価指標を取り入れ、ポジティブな行動変容を促す設計を心がける必要があります。
まとめ
DX推進におけるKPIは、不確実な変革の道のりを照らす重要な羅針盤です。財務指標だけでなく、顧客体験、組織文化、技術基盤といった非財務指標をバランスよく組み合わせ、多角的に評価体系を構築することが成功の鍵となります。また、設定したKPIをデータ基盤と連携させて可視化し、PDCAサイクルを高速で回す運用体制が不可欠です。本記事で紹介した手順や指標例を参考に、自社の戦略に合致した独自のKPIを設計し、経営と現場が一体となって企業価値向上を目指すDXを推進していきましょう。
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