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日本と海外のDXを比較|なぜ日本は遅れている?海外の先進事例と日本が学ぶべき5つのポイント
日本と海外のDX推進状況を徹底比較。IPA「DX白書」のデータに基づき、日本が遅れている根本的な理由を解説します。Amazon、Tesla、ユニクロなど国内外の成功事例35選から、ビジネスモデル変革のヒントと、日本企業が取り入れるべき5つの成功法則を学びます。
目次
「なぜ、日本のDXは海外に比べてこれほどまでに遅れているのか?」
「海外の企業は具体的にどのようなデジタル変革を行い、成果を出しているのか?」
多くの日本企業の経営者やDX担当者が、この問いに頭を悩ませています。IPA(情報処理推進機構)が発行する「DX白書」などのデータを見ても、日本企業は米国企業に対し、デジタルによる「ビジネスモデルの変革」や「新規ビジネスの創出」といった成果において、決定的な後れを取っているのが現実です。
しかし、悲観する必要はありません。遅れているということは、裏を返せば、海外の先行事例から学び、効率的にキャッチアップできる「後発の利益」があるとも言えます。
本記事では、国内外のDX事情に精通した専門家が、日本が抱える構造的な課題を分析しつつ、世界をリードする海外企業20社と、国内で変革に挑む先進企業15社の事例を徹底解説します。
DXとは?
DXとは、単にアナログデータをデジタル化する「デジタイゼーション」や、個別の業務プロセスをIT化する「デジタライゼーション」の先にある概念です。経済産業省の定義にもある通り、データとデジタル技術を駆使して、製品やサービス、ビジネスモデル、そして組織文化そのものを根本から変革し、競争上の優位性を確立することを指します。
海外、特に米国の先進企業では、この「ビジネスモデルの変革」こそがDXの本丸であると認識されています。一方、日本では「ハンコをなくす」「ペーパーレス化する」といった「業務効率化(守りのDX)」がゴールとされがちです。この認識のズレこそが、日本と海外のDX成果における決定的な差を生む最初の分岐点となっています。DXの本質は、デジタルを手段として使い、顧客に提供する価値を劇的に高めることにあります。
【DX白書】なぜ日本のDXは海外に遅れているのか?
IPA(情報処理推進機構)が発行する「DX白書」などの各種調査において、日本のDX推進状況は海外に比べて芳しくありません。「DXに取り組んでおり、成果が出ている」と回答する企業の割合は、米国と比較して半分以下というデータもあります。
なぜ、技術大国と呼ばれた日本がこれほどまでに苦戦しているのでしょうか。その背景には、日本企業特有の3つの構造的な課題が存在します。
課題1:レガシーシステムの壁
多くの日本企業では、1980年代から90年代にかけて構築されたメインフレームや、過度にカスタマイズされたERPなどの基幹システムが、現在も現役で稼働しています。これらのシステムは、長年の改修によって内部構造がブラックボックス化しており、維持管理だけでIT予算の多くを消費しています。
経済産業省が「2025年の崖」として警告したように、このレガシーシステムが足かせとなり、新しいデジタル技術の導入や、部門を超えたスムーズなデータ連携を阻んでいます。データが「サイロ化(分断)」されているため、経営判断に必要な情報をリアルタイムで引き出すことができず、DXの第一歩目でつまずいてしまうのです。
課題2:デジタル人材の圧倒的な不足
DXを推進するためには、ビジネスの変革を構想する「プロデューサー」や、データを分析する「データサイエンティスト」、システムを実装する「エンジニア」が不可欠です。しかし、日本においてはこれらの人材が質・量ともに圧倒的に不足しています。
さらに深刻なのは、IT人材の所属の違いです。米国ではIT人材の多くが「ユーザー企業(事業会社)」に所属し、社内でシステムを内製化していますが、日本では約7割が「ベンダー企業(SIerなど)」に所属しています。そのため、社内に技術的なノウハウが蓄積されにくく、スピード感を持った開発が困難な構造になっています。
課題3:保守的な組織文化と経営層の意識
失敗を恐れ、前例踏襲を重んじる日本企業の保守的な文化も、DXの阻害要因です。DXは「やってみなければ分からない」不確実性の高い取り組みであり、試行錯誤(トライ&エラー)が前提となります。しかし、減点主義の人事評価制度や、完璧な計画を求める経営層の姿勢が、現場の挑戦意欲を削いでいます。
また、経営層自身がDXを「IT部門がやるべきツール導入の話」と矮小化して捉えているケースも少なくありません。トップが「自社がどう変わりたいか」というビジョンを示さず、現場に丸投げしてしまうため、部分的な改善に留まり、全社的な変革につながらないのです
海外でDXが加速する理由(日本との対比)
日本が苦戦する一方で、なぜ海外企業、特に米国や中国、北欧の企業はDXで次々と成果を上げられるのでしょうか。そこには、日本とは対照的なマインドセットと環境があります。
徹底した「顧客体験(CX)」中心主義
海外のDX成功企業に共通するのは、「顧客にとって何がベストかを徹底的に追求する姿勢です。「技術的に可能だからやる」のではなく、「顧客の不満を解消するために技術を使う」という順序が明確です。Amazonの「ワンクリック注文」やUberの「配車マッチング」は、すべて顧客の手間やストレスを極限まで減らすために設計されています。
データドリブンな意思決定
「KKD(勘・経験・度胸)」に頼りがちな日本に対し、海外企業では「データこそが真実」という文化が根付いています。経営トップから現場のスタッフまで、ダッシュボードでリアルタイムのデータを共有し、事実に基づいて意思決定を行います。
Netflixがオリジナルコンテンツの制作において、視聴データを徹底的に分析して脚本やキャストを決めているのは有名な話です。
アジャイルな開発と失敗を許容する文化
変化の激しいデジタル時代において、何ヶ月もかけて完璧な要件定義を行うウォーターフォール型開発はリスクとなります。海外では、最低限の機能(MVP)でサービスをリリースし、ユーザーの反応を見ながら数週間単位で改善を繰り返す「アジャイル開発」が主流です。
「早く失敗して、早く学ぶ(Fail fast, Learn fast)」という考え方が浸透しており、失敗は恥ではなく、成功へのプロセスとして評価されます。
【海外編】世界をリードするDX成功事例 20選
それでは、実際に世界をリードする企業がどのようなDXを行っているのか、20の事例を見ていきましょう。彼らが「どの課題」を「どう解決したか」に注目してください。
【小売・EC】
小売業界では、オンラインとオフラインの融合(OMO)や、AIによるサプライチェーンの最適化が進んでいます。
1. Amazon(米国)
Amazonは、倉庫内をロボットが自律移動して商品を運ぶ「Amazon Robotics」により、ピッキング作業の効率を劇的に向上させました。
また、レジなし店舗「Amazon Go」では、カメラとセンサーによる画像認識技術で「レジに並ぶ」という顧客のペイン(苦痛)を完全に解消しています。
2. Walmart(米国)
Amazonに対抗すべく、巨額のDX投資を行っています。全米の店舗をECの物流拠点として活用する「BOPIS(店舗受取)」を強化。
さらに、AIを活用して地域ごとの天候やイベントに基づいた精密な需要予測を行い、在庫の適正化と廃棄ロス削減を実現しました。リアル店舗の強みとデジタルを融合させた成功例です。
3. Nike(米国)
Amazonでの販売を停止し、自社アプリを通じた直接販売(D2C)へシフトしました。「Nike Run Club」などのアプリでランナーの活動データを収集し、それに基づいた商品開発や、個別のマーケティングを展開。
店舗でもアプリを使って商品の在庫確認や試着リクエストができるなど、シームレスな購買体験を提供しています。
4. Alibaba(中国)
ECサイト「天猫(Tmall)」や「淘宝(Taobao)」だけでなく、決済アプリ「Alipay」、物流プラットフォーム「Cainiao」、そしてクラウド基盤「Alibaba Cloud」を連携させた巨大な経済圏を構築しています。
独身の日(W11)セールでは、AIが毎秒数十万件の注文を処理し、最適な配送ルートを瞬時に計算するなど、データの力がビジネスを支えています。
【エンタメ・サービス】
モノを売るのではなく、体験を提供するサービス業では、サブスクリプションモデルとパーソナライズが鍵となります。
5. Netflix(米国)
DVDレンタル業からストリーミング配信へ大胆にピボットしました。Netflixの強みは、全世界のユーザーの視聴履歴、停止位置、検索ワードなどのビッグデータ活用です。
AIが「誰にどの作品を推奨するか」を判断するだけでなく、「どのようなストーリー、キャストならヒットするか」を分析してオリジナルコンテンツを制作し、大成功を収めています。
6. Spotify(スウェーデン)
SpotifyのAIによるレコメンデーション機能「Discover Weekly」は、ユーザー自身も気づいていない「好みの曲」を発掘してくれます。
また、開発組織を「スクワッド」と呼ばれる小さな自律チームに分割し、高速で機能を改善するアジャイルな組織運営でも知られています。
7. Disney(米国)
伝統的なエンタメ企業ですが、DXには積極的です。フロリダのディズニーワールドで導入された「マジックバンド」は、チケット、ホテルの鍵、決済機能、ファストパスが一体となったウェアラブル端末です。
これにより顧客体験を向上させると同時に、ゲストの移動履歴や購買データを収集し、パーク運営の最適化に役立てています。動画配信「Disney+」への参入も、データドリブンな戦略の一環です。
【金融(FinTech)】
既存の金融機関がテクノロジー企業へと変貌を遂げる事例や、全く新しい銀行体験を提供するスタートアップが台頭しています。
8. DBS Bank(シンガポール)
かつては「対応が遅い」と評判が悪かったDBSですが、CEOの強力なリーダーシップの下、「World’s Best Digital Bank」へと変貌しました。
「Live more, Bank less(銀行を忘れて人生を楽しもう)」を掲げ、APIを通じて旅行サイトや不動産サイトに銀行機能を埋め込みました。行員全員にデジタル教育を施し、組織文化から変革した好例です。
9. Revolut(英国)
Revolutでは、一つのアプリで、両替、海外送金、株式投資、暗号資産取引、旅行保険の加入までが完結します。
優れたUI/UXで、煩雑だった金融手続きをゲーム感覚で操作できるようにし、若年層を中心に爆発的な支持を得ています。
【製造・モビリティ】
「モノづくり」から、データやソフトウェアで価値を提供する「コトづくり」への転換が進んでいます。
10. Tesla(米国)
テスラは販売した車両に対し、OTA(無線通信)でソフトウェアアップデートを配信することで、航続距離が伸びたり、自動運転機能が向上したりします。
「買った後も進化し続ける」という新しい価値を創造し、自動車業界のビジネスモデルを根底から覆しました。
11. Siemens(ドイツ)
重電大手のシーメンスは、自社工場のDX(インダストリー4.0)で培った知見をプラットフォーム「Mindsphere」として外販しています。
顧客の工場の機械からデータを収集・分析し、生産効率の向上や予知保全を支援。「製造業のサービス化(サービタイゼーション)」を体現しています。
12. General Electric (GE)(米国)
航空機エンジンや発電タービンにセンサーを取り付け、稼働データをリアルタイムで監視する「インダストリアル・インターネット」を提唱しました。
故障の予兆を検知して事前にメンテナンスを行うことで、顧客のダウンタイム(稼働停止時間)を最小化。エンジンの販売だけでなく、保守サービスで安定収益を得るモデルを確立しました。
13. Uber(米国)
Uberは、スマホアプリ上のプラットフォームで「移動したい人」と「ドライバー」をマッチングさせ、GPSによる追跡、相互評価システム、ダイナミックプライシングを導入。テクノロジーによって「移動」の信頼性と利便性を再定義しました。
【飲食・その他】
飲食、農業、行政など、あらゆる分野でデジタルによる効率化と価値創出が進んでいます。
14. Starbucks(米国)
「モバイルオーダー&ペイ」により、レジ待ちのストレスを解消。アプリで収集した購買データを活用し、顧客一人ひとりに合わせた「One to Oneマーケティング」を展開し、リピート率を高めています。シリコンバレーのテック企業並みのデジタル投資を行っていることでも有名です。
15. Domino's Pizza(米国)
Domino's Pizzaは、スマホ、スマートウォッチ、車、Twitterなど、あらゆるデバイスから注文できる「AnyWare」を展開しました。
また、配達状況がリアルタイムで分かる「ピザトラッカー」は、「いつ届くか分からない」という顧客の不安を解消する画期的なUXでした。
16. LEGO(デンマーク)
LEGOは、ユーザーが考案したレゴ作品を投稿し、投票で商品化が決まる「LEGO Ideas」というコミュニティサイトを運営。
ファンとの共創(コ・クリエーション)を実現しています。また、ブロックとアプリを連動させた新しい遊びの提案も積極的に行っています。
17. IKEA(スウェーデン)
AR(拡張現実)技術を活用したアプリ「IKEA Place」を開発。スマホのカメラを通して、自宅の部屋に実寸大の家具をバーチャル配置できるようにしました。
「サイズが合うか」「部屋の雰囲気に合うか」という購入前の不安を解消し、ECでの家具販売を促進させています。
18. John Deere(米国)
トラクターにGPSやセンサーを搭載し、土壌の状態や作物の生育状況をセンチメートル単位で把握。AIが最適な肥料の量や収穫時期を判断する「精密農業」を提供し、農家の生産性向上を支援しています。
19. シンガポール政府(行政)
シンガポール政府は、国家戦略として「スマートネーション」を推進しています。国民ID「Singpass」を整備し、これ一つで行政手続きはもちろん、銀行口座開設や医療情報の閲覧まで可能にしました。「ワンスオンリー(一度の入力で済む)」を徹底し、世界で最も効率的な電子政府を実現しています。
20. L'Oréal(フランス)
化粧品大手のロレアルは、ビューティーテック企業への転換を進めています。AIによる肌診断サービスや、ARによるバーチャルメイクアプリ「ModiFace」を買収・活用。店頭に行かなくても自分に合う商品を試せる体験を提供し、EC売上を大幅に伸ばしています。
【日本編】課題に挑む国内DX成功事例15選
海外に比べて遅れていると言われる日本ですが、独自の強みを活かしてDXを成功させている企業も確実に増えています。
【製造・建設】
日本の「ものづくり」の現場力とデジタルを融合させた事例です。
21. コマツ
建設機械にGPSと通信システムを搭載した「KOMTRAX」を開発。世界中の建機の位置や稼働状況を遠隔で把握し、盗難防止やメンテナンス時期の通知を行うサービスを提供。「モノ売りからコト売り」へ転換した、日本におけるDXの先駆的事例です。
22. ブリヂストン
タイヤの空気圧や温度を監視するセンサー技術「Tirematics」を展開。運送会社に対し、タイヤの摩耗状況を遠隔監視し、最適なタイミングでの交換やメンテナンスを提案するソリューションビジネスを強化しています。
23. トヨタ自動車
「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」への変革を掲げています。全ての車をネットにつなぐ「コネクティッドカー」戦略や、静岡県裾野市での実証実験都市「Woven City」の建設など、移動にまつわるあらゆるサービスを開発・提供するプラットフォーム作りを進めています。
【小売・アパレル】
データを活用した需要予測や、新しい顧客体験の創出に取り組む事例です。
24. ワークマン
作業服から一般向けへ市場を拡大し大成功しました。その裏には「エクセル経営」があります。全社員がエクセルでデータを分析し、店舗ごとの需要を予測して発注を行うことで、値引き販売を極限まで減らしました。
また、インフルエンサーを製品開発に巻き込むアンバサダーマーケティングも特徴的です。
25. ユニクロ(ファーストリテイリング)
「情報製造小売業」を掲げ、サプライチェーン全体のDXを推進。RFIDタグ(ICタグ)を全商品に導入し、セルフレジによる決済の自動化や、棚卸し作業の効率化を実現しました。顧客データを生産計画に直結させ、無駄な在庫を持たない仕組みを構築しています。
26. ZOZO
ファッション通販における「サイズへの不安」を解消するため、計測技術に注力しています。足のサイズを計測する「ZOZOMAT」や、AIを活用した「似合う」ファッションの提案など、テクノロジーを使ってECでの購買体験を向上させ続けています。
【飲食・サービス】
人手不足や食品ロスといった社会課題を、デジタル技術で解決しています。
27. スシロー
回転寿司の皿にICタグを取り付け、レーン上の寿司の鮮度管理と需要予測を行っています。「どのネタがいつ食べられたか」という膨大なデータをAIが分析し、店長に「今、何をどれだけ流すべきか」を指示。廃棄ロス削減と売上最大化を両立しています。
28. ローソン
AIによる需要予測に基づく自動発注システムを全店に導入。店長の業務負担を削減するとともに、食品ロスの削減に取り組んでいます。また、アバターロボットを活用した遠隔接客の実証実験など、省人化に向けた試みも積極的です。
29. メルカリ
日本最大のフリマアプリとして、C2C(個人間取引)の信頼性をテクノロジーで担保しています。出品画像のAI解析による商品名自動入力や、不正出品の検知、売れやすい価格の提案など、AIを駆使してUXを磨き続けています。
【金融・インフラ】
レガシーシステムという重荷を抱えながらも、顧客接点のデジタル化を進めています。
30. りそなホールディングス
「銀行の常識を変える」を掲げ、使い勝手の良い「りそなグループアプリ」を開発。振込や住所変更など、従来は窓口で行っていた手続きの多くをスマホで完結させました。店舗業務の効率化と顧客利便性の向上を同時に実現しています。
31. 三菱UFJフィナンシャル・グループ
巨大な組織ながら、システム子会社の再編やデジタル人材の採用・育成を強化しています。外部のFinTech企業と連携するためのAPI基盤を整備し、オープンイノベーションを推進。ハンコレス・ペーパーレス化などの業務改革も進めています。
32. アスクル
オフィス用品通販の物流センター「LOHACO」において、数百台の自動搬送ロボットやピッキングロボットを導入。人手不足が深刻な物流現場において、出荷能力の向上と省人化を実現した物流DXの先進事例です。
【その他】
33. 資生堂
IoTスキンケアシステム「Optune(オプチューン)」(現在はサービス終了し知見を活用)など、肌データに基づいたパーソナライズ美容を提案。全世界の美容部員にタブレットを配布し、デジタルカウンセリングを強化するなど、顧客接点のデジタル化を進めています。
34. LINE
メッセージアプリを基盤に、決済(LINE Pay)、金融、ヘルスケア、行政サービスまでを統合した「スーパーアプリ」戦略を展開。圧倒的なユーザー数を背景に、日本の生活インフラとしての地位を確立しています。
35. ソニーグループ
イメージセンサーにAI処理機能を搭載した「インテリジェントビジョンセンサー」を開発し、小売店や工場のDXを支援。また、プレイステーションや音楽事業において、ネットワークを通じたサブスクリプションモデルを確立し、高収益体質への変革を果たしました。
事例から分析!日本と海外のDXの違い
ここまで紹介した35の事例を比較・分析すると、日本と海外のDXには「目的」と「進め方」において明確な違いが見えてきます。
目的の違い
海外(攻めのDX)
主な目的は「売上の拡大」や「新規ビジネスの創出」です。顧客体験(CX)を劇的に変えることや、データを活用してビジネスモデルそのものを転換することに投資が集中しています。(例:Netflix、Tesla)
日本(守りのDX)
主な目的は「コスト削減」や「業務効率化」になりがちです。既存のビジネスモデルはそのままに、ツールを使って今の作業を楽にすることに主眼が置かれています。(例:ペーパーレス化、RPA導入)
進め方の違い
海外(アジャイル・内製化)
社内のエンジニアが中心となり、小さく作って素早く改善する「アジャイル開発」で進めます。失敗を前提としており、修正スピードが早いです。
日本(ウォーターフォール・外注)
要件定義を固めてから外部ベンダーに発注する「ウォーターフォール型」が多く、リリースまでに時間がかかります。また、丸投げ体質のため社内にノウハウが残りません。
日本のDX推進、海外から学ぶべき5つの成功法則
日本企業が海外との差を縮め、DXを成功させるためには、以下の5つのポイントを取り入れる必要があります。
1. 経営トップによるコミットメント
DXは現場の改善活動ではありません。経営トップが「過去の成功体験を捨てる」覚悟を持ち、全社的なビジョンとしてDXを推進する必要があります。IT部門任せにせず、経営者自身がDXのオーナーシップを持つことが出発点です。
2.「顧客起点」でDXの目的を再定義する
「AIを使いたい」「クラウドにしたい」といった手段から入るのは失敗の元です。「顧客のどのような不満を解消したいのか」「どのような新しい体験を提供したいのか」という顧客起点(CX)で目的を再定義し、そのために必要な技術を選定すべきです。
3. スモールスタートとアジャイル開発の導入
最初から大規模なシステム刷新を目指すと、計画だけで数年かかり、その間に技術が陳腐化してしまいます。まずは特定の部署や課題に絞って小さく始め(スモールスタート)、PoC(概念実証)で効果を確認しながら、アジャイルに進める手法を取り入れましょう。
4. データ活用基盤の整備と内製化への投資
部門ごとに散らばったデータを一元管理できるクラウド基盤を整備することが急務です。また、外部ベンダーへの依存度を下げ、社内でデータを扱える人材を育成(リスキリング)し、内製化率を高めることへの投資を惜しんではいけません。
5. 失敗を許容し、挑戦を奨励する組織文化
最も重要なのはマインドセットの変革です。「失敗したら減点」ではなく、「挑戦したこと自体を加点」する人事評価制度や組織風土を作ること。現場が萎縮せずにデジタル活用に挑戦できる環境こそが、DX成功の土壌となります。
まとめ
日本と海外のDXを比較すると、その差は「技術力」よりも、ビジネスを変革しようとする「意思」と「スピード」にあることが分かります。
AmazonやNetflixのようなグローバル企業の事例は遠い存在に見えるかもしれません。しかし、ワークマンやスシローのように、日本企業であっても、データを武器に既存の業界常識を覆し、大きな成果を上げている企業は存在します。
彼らに共通するのは、「顧客のために変わる」というシンプルな目的と、「まずやってみる」という行動力です。
日本のDXはまだ道半ばです。しかし、それは伸び代があるということでもあります。本記事で紹介した海外の成功法則をヒントに、まずは自社の足元にある課題から、小さな「変革」の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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