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食品業界のDXとは?人手不足・食品ロスなどの課題や解決策、成功事例12選

食品業界のDXとは何か、人手不足や食品ロス、HACCP対応といった課題解決の切り札となるデジタル活用法を徹底解説。スシロー、キユーピーなどの成功事例12選とともに、導入が進まない理由や成功への5ステップも紹介します。

目次

  1. 食品業界におけるDXとは?
  2. なぜ急務?食品業界が抱える4つの課題
  3. DX導入で解決できること
  4. 【課題・技術別】食品業界DXの成功事例12選
  5. 食品業界のDXが進まない3つの理由
  6. 食品業界DX 成功への5ステップ
  7. まとめ

「原材料費の高騰と人手不足で、利益を確保するのが年々難しくなっている」

「食品ロスの削減やHACCP対応など、やるべきことが山積みで現場が疲弊している」

食品業界の経営者や現場責任者の方々は、今、かつてないほどの厳しい課題に直面しています。

少子高齢化による労働力不足、消費者の食に対する安全・安心への意識の高まり、そしてSDGsの観点から求められる廃棄ロスの削減。これらの複合的な課題を、従来のアナログな手法だけで解決するのはもはや限界に近い状況です。そこで注目されているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。

しかし、「DXといっても、うちのような中小規模の工場や店舗で何ができるのか?」「導入コストに見合う効果が出るのか?」と不安を感じる方も多いはずです。

本記事では、食品業界のDXに精通した専門家が、基礎知識から具体的なメリット、そして国内企業の成功事例12選を課題別・技術別に詳しく解説します。

食品業界におけるDXとは?

食品業界におけるDXとは、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボット、クラウドといった先進的なデジタル技術を活用し、原材料の調達から製造、物流、販売に至るまでの全プロセスを根本から変革することを指します。

  • ・プロセスの変革:自動化による省人化、AIによる需要予測、ペーパーレス化
  • ・価値の創出:食の安全性の可視化、個人の嗜好に合わせた商品提供
  • ・ビジネスモデルの変革:データを活用したD2C(Direct to Consumer)への参入など

よくある誤解として、「手書きの帳票をExcelに入力するようにした」といった「デジタイゼーション(電子化)」と混同されがちです。

しかし、DXの本質は、デジタル化を手段として活用し、「食品ロスの削減」や「圧倒的な生産性向上」といった新たな競争力を手に入れることにあります。製造工場だけでなく、農場から食卓までのサプライチェーン全体をデータで繋ぐことが、これからの食品業界DXの要となります。

なぜ急務?食品業界が抱える4つの課題

食品業界においてDXが急務の状況となっている背景には、業界構造そのものに関わる深刻な課題が存在します。これらは、従来の人力による改善活動だけでは解決困難なレベルに達しています。

  • ・深刻化する人手不足と「匠の技」の喪失
  • ・利益を圧迫し環境負荷となる食品ロス問題
  • ・HACCP義務化に伴う管理業務の増大
  • ・消費者ニーズの多様化とサプライチェーンの複雑化

それぞれの課題について、なぜ今対策が必要なのかを詳しく解説します。

1. 深刻化する人手不足と技術継承

食品製造の現場や物流、店舗運営は、労働集約型の業務が多く、少子高齢化による労働力不足の影響を最も強く受けています。深夜・早朝勤務や、冷蔵・冷凍環境での作業など、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージも払拭しきれておらず、人材確保は年々困難になっています。

さらに深刻なのが、熟練技術者の引退による技術継承の問題です。食品製造、特に和菓子や発酵食品などの分野では、温度や湿度の変化に応じた微調整を職人の「勘と経験」に頼ってきました。ベテランが抜けることで品質が維持できなくなるリスクが高まっており、この暗黙知をいかに形式知化し、誰でも高品質な製品を作れるようにするかが急務となっています。

2. 廃棄ロス(食品ロス)の発生

食品ロスは、企業の利益を直接的に圧迫するだけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも社会的責任として削減が求められています。しかし、食品は天候や気温、イベントなどによって需要が大きく変動するため、正確な予測が極めて困難です。

また、業界特有の商習慣である「3分の1ルール(製造日から賞味期限までの期間を3等分し、納品期限や販売期限を設けるルール)」もロスの要因の一つです。欠品を恐れるあまり過剰に生産・発注し、結果として大量の廃棄を生む構造から脱却できていません。需要に見合った適正な生産・発注体制への移行は、経営の健全化に不可欠な要素です。

3. HACCP対応など厳格化する品質・安全管理

2021年6月からHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が完全義務化されました。これにより、すべての食品等事業者は、原材料の受け入れから製品の出荷に至るまでの重要管理点(CCP)を常時監視し、記録・保存することが法的に求められています。

しかし、冷蔵庫の温度チェックや清掃記録などをすべて紙の帳票で管理するのは、現場にとって膨大な負担です。また、手書き記録では記入ミスや改ざんのリスクも完全には排除できません。食の安全に対する消費者の目が厳しくなる中、効率的かつ信頼性の高い管理体制を構築しなければ、企業の存続に関わる問題に発展しかねません。

4. サプライチェーンの複雑化と消費者ニーズの多様化

かつてのような「少品種大量生産」の時代は終わり、消費者のニーズは「健康志向」「アレルギー対応」「個食化(小分け)」など細分化しています。これに対応するための多品種少量生産は、段取り替えの手間を増やし、生産効率を低下させる要因となります。

一方で、原材料の調達から消費者に届くまでのサプライチェーンは長く複雑です。多くの企業が関わっているにもかかわらず、受発注業務には依然として電話やFAXが多用されており、情報の伝達にタイムラグやミスが生じています。市場の変化に即座に対応できるアジャイルな供給体制を作らなければ、機会損失や過剰在庫を招くことになります。

DX導入で解決できること

食品業界にける課題は、DXを推進することで解決の糸口が見えてきます。デジタル技術の導入によって得られる具体的なメリットは以下の通りです。

  • ・生産性向上:ロボットとAIによる自動化と省人化
  • ・ロス削減:データドリブンな需要予測による適正生産
  • ・品質保証:デジタル記録によるミスの撲滅とトレーサビリティ
  • ・売上拡大:顧客データを活用した新商品開発

生産性向上と人手不足の解消

単純作業や重労働をロボットに任せることで、限られた人的リソースをより付加価値の高い業務(商品開発や品質管理など)に集中させることができます。たとえば、AIを搭載した協働ロボットなら、不定形な食材の盛り付けや検品作業も自動化可能です。

また、熟練職人の動作や判断基準をセンサーとAIで学習・データ化することで、経験の浅い従業員でもベテランと同等の品質で製造できるようになります。これは人手不足の解消と技術継承の両面で極めて高い効果を発揮します。

食品ロスの削減

過去の販売実績データに加え、気象情報、近隣イベント情報、SNSのトレンドなどのビッグデータをAIで分析することで、人間よりも遥かに高精度な需要予測が可能になります。

「明日は気温が下がるから、この総菜の売上が伸びる」といった予測に基づき、仕入れや生産量を最適化することで、売れ残りによる廃棄ロスと、欠品による機会損失を同時に削減できます。ダイナミックプライシング(変動価格制)を導入し、賞味期限が迫った商品を自動的に値引きして売り切る仕組みも、DXの一環として有効です。

品質管理の高度化とHACCP対応の効率化

IoTセンサーを活用すれば、冷蔵・冷凍庫やオーブンの温度、湿度などを24時間365日自動で計測・記録できます。異常があれば即座にアラートが通知されるため、トラブルへの対応スピードも格段に向上します。

これまで現場スタッフが時間を割いていた帳票記入の手間がゼロになり、記入漏れや改ざんの心配もなくなります。また、原材料の入荷から製品出荷までのデータを紐づけて管理(トレーサビリティ)することで、万が一問題が発生した場合でも、迅速な原因究明と対象商品の特定(リコール範囲の限定)が可能になります。

データに基づく商品開発・マーケティング

POSレジの購買データや、アプリ・ECサイトの閲覧履歴などを分析することで、消費者の潜在的なニーズを把握できます。「どのような顧客層が、どのようなタイミングで、何と一緒に購入しているか」が見える化されれば、勘に頼らない確度の高い商品開発が可能になります。

また、顧客一人ひとりの好みに合わせたレシピ提案やクーポン配信など、One to Oneマーケティングを展開することで、顧客ロイヤルティを高め、LTV(顧客生涯価値)の向上につなげることもできます。

【課題・技術別】食品業界DXの成功事例12選

実際にDXに取り組み、課題解決と競争力強化に成功している食品関連企業の事例を12選紹介します。自社の課題に近い事例を参考にしてください。

【AI・需要予測】食品ロス削減・在庫最適化の事例

AIによる高精度な需要予測を活用し、廃棄ロスの削減や発注業務の効率化を実現した事例です。

事例1:スシロー(あきんどスシロー)

回転寿司チェーン大手のスシローでは、すべての寿司皿にICタグを取り付け、レーン上の商品をリアルタイムで管理するシステム「回転すし総合管理システム」を導入しています。

どのネタが、いつレーンに流され、いつ食べられたか(あるいは廃棄されたか)というデータを全店舗で収集。これに過去の売上データや店内の着席状況などを掛け合わせ、「今、どのネタを何皿流すべきか」をAIが判断し、調理スタッフに指示を出します。この仕組みにより、常に新鮮な寿司を提供しつつ、レーン上の廃棄ロスを極限まで削減することに成功しています。

事例2:ローソン

コンビニエンスストアのローソンは、各店舗の発注業務を支援するAIシステムを導入しています。従来、発注作業は店長やベテランスタッフの経験に依存しており、1日あたり数時間を要する重い業務でした。

導入したAIは、店舗ごとの販売実績、天気予報、近隣のイベント情報などを分析し、商品ごとの推奨発注数を提示します。さらに、販売期限が迫った商品に対して「いくら値引きすれば売り切れるか」を予測する機能も実装。これにより、発注にかかる時間を大幅に短縮すると同時に、食品ロスと値引きによる利益減少を抑制しています。

事例3:ユーハイム

洋菓子メーカーのユーハイムは、バウムクーヘン専用のAIオーブン「THEO(テオ)」を開発し、自社店舗だけでなく他社への提供も行っています。

バウムクーヘンの焼成は、その日の気温や湿度、生地の状態を見極めながら火加減を調整する必要があり、一人前になるには長年の修行が必要でした。THEOは、ベテラン職人の焼き方を機械学習しており、生地の状態を画像センサーで監視しながら自動で完璧に焼き上げます。これにより、職人不足の解消と、品質の均一化による廃棄の減少を実現しました。

【AI・IoT】工場自動化・人手不足解消の事例

製造ラインに画像認識AIやIoTセンサーを導入し、検査の自動化や設備の予知保全を行った事例です。

事例4:キユーピー

キユーピーは、ベビーフードや総菜の製造ラインにおいて、AIを活用した原料検査システムを導入しました。特にダイス状にカットされたポテトなどの選別は、変色や皮の混入を目視で取り除く必要があり、多大な労力がかかっていました。

ディープラーニングを用いた画像解析システムを導入したことで、良品と不良品を高速かつ正確に識別し、エア噴射で自動選別することが可能になりました。これにより、検査速度を従来の2倍に向上させるとともに、検査員の人員配置を見直し、人手不足への対応力を強化しました。

事例5:カルビー

スナック菓子大手のカルビーは、各工場にIoTセンサーを張り巡らせ、製造プロセスを可視化・最適化しています。ポテトチップスの製造ラインでは、ジャガイモの水分量や揚げ時間、温度などのデータをリアルタイムで収集しています。

これらのデータを分析することで、製品の食感や味のばらつきを抑え、常に一定の品質を維持しています。また、パッケージの印字ミスや包装不良などのトラブルもセンサーで検知し、不良品の発生を未然に防ぐ体制を構築。従業員が現場を走り回って確認する必要がなくなり、業務効率が大幅に向上しました。

事例6:ロッテ

ロッテの浦和工場では、人気商品「雪見だいふく」の製造ラインをスマートファクトリー化しています。お餅の状態は温度や湿度に敏感で、製造条件の調整が難しい製品の一つです。

同社は、製造ライン上のあらゆる箇所にセンサーを設置し、お餅の温度や粘度、設備の振動データなどを収集。これらのビッグデータをAIが分析し、最適な製造条件を導き出すことで、品質の安定化を図っています。さらに、設備の異常予兆を検知するシステムも導入し、突発的な故障によるライン停止(ダウンタイム)の削減にも成功しています。

【品質・安全管理】HACCP対応・トレーサビリティ強化の事例

食の安全を守るための記録・管理業務をデジタル化し、信頼性と効率性を高めた事例です。

事例7:三島食品

「ゆかり」で知られる三島食品は、工場の生産管理において「目で見る管理」のデジタル化を推進しています。従来はホワイトボードに手書きしていた生産予定や実績を、BIツールを用いたダッシュボードに置き換えました。

これにより、工場の稼働状況や生産進捗がリアルタイムで可視化され、現場の管理者やスタッフが即座に状況を把握できるようになりました。また、温湿度管理などのHACCP関連データも自動収集・記録する仕組みを整え、帳票作成の手間を削減すると同時に、監査対応の迅速化を実現しています。

事例8:日清食品

日清食品は、関西工場に「NASA室」と呼ばれる集中管理室を設置し、工場内のあらゆる情報を一元管理しています。NASAの管制室を模したこの部屋では、製造ラインの監視カメラ映像、設備の稼働データ、エネルギー使用量などが大型モニターに表示されます。

これにより、少人数のスタッフで広大な工場全体を監視することが可能になりました。品質トラブルが発生した際も、録画映像とデータを即座に照合して原因を特定できるため、トレーサビリティの精度とスピードが劇的に向上しています。徹底した品質管理体制の象徴的な事例です。

事例9:マルハニチロ

マルハニチロは、全社的なDXの一環として基幹システム(ERP)を刷新し、品質情報の管理レベルを引き上げました。以前は工場ごとに異なるシステムや業務フローが存在し、全社的なデータの統合が困難でした。

新システムにより、原材料の配合情報や製造履歴などのデータが一元管理され、業務プロセスが標準化されました。これにより、人為的な配合ミスや計量ミスをシステム的に防止できるようになったほか、万が一の際の追跡調査(トレース)が瞬時に行えるようになり、食品安全に対する信頼性が大きく向上しました。

【販売・業務改革】サプライチェーン・業務効率化の事例

製造現場以外でも、商品開発やバックオフィス業務においてデジタル技術を活用し、効率化を進めている事例です。

事例10:アサヒグループHD

アサヒグループホールディングスは、商品パッケージの開発や棚割り(店舗での陳列)の検討にVR(仮想現実)技術を導入しています。

従来は、試作したパッケージを実際の棚に並べて見栄えを確認していましたが、これには物理的なサンプルの作成が必要でした。VR技術を活用することで、仮想空間上の店舗でパッケージデザインの視認性や比較検討を行うことが可能になりました。これにより、デザイン決定までの時間を短縮し、開発コストの削減につなげています。

事例11:日本ハムファクトリー

日本ハムグループの製造部門である日本ハムファクトリーでは、数千名規模の従業員を抱えており、入退社手続きや年末調整などの労務管理業務が大きな負担となっていました。

そこで、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を導入し、紙ベースで行っていた手続きをペーパーレス化しました。従業員がスマートフォンから直接情報を入力できるようになったことで、人事担当者の入力作業や書類不備の確認作業が激減。コア業務への集中が可能になり、全社的な働き方改革に貢献しています。

事例12:中小パン製造業

ある地方の中小パン製造会社では、配送仕分け業務のミス削減と効率化のために、QRコードを活用したピッキングシステムを導入しました。多品種のパンを配送先ごとに仕分ける作業は、従来は紙のリストを見ながら行っており、誤配が頻発していました。

商品と配送コンテナのQRコードをハンディ端末で読み取る仕組みを導入したことで、正しい組み合わせでないとアラートが鳴るようになり、誤配率はほぼゼロになりました。特別な大型設備を導入せずとも、身近な技術で現場の課題を解決した好事例です。

食品業界のDXが進まない3つの理由

多くの成功事例がある一方で、食品業界全体を見渡すとDXはまだ十分に進んでいるとは言えません。なぜ食品業界ではDXが遅れがちなのでしょうか。主な阻害要因は3つあります。

多額の初期投資とコスト意識

食品業界は、他の製造業と比較して利益率が低い傾向にあります。そのため、AIカメラやロボット、基幹システムの刷新といった多額の費用がかかる投資に対して、経営層が慎重になりがちです。

「本当に元が取れるのか?」というシビアなコスト意識が強く、費用対効果(ROI)を明確に示しにくいDXプロジェクトは、予算承認のハードルが高くなります。特に中小企業においては、「今のままでも現場は回っている」という現状維持バイアスが働きやすく、投資への決断が先送りされる傾向があります。

デジタル人材の不足とITリテラシー

DXを推進するためには、食品の知識だけでなく、デジタル技術やデータ分析に精通した人材が必要です。しかし、IT人材は全産業で争奪戦となっており、食品業界が優秀なエンジニアを採用するのは容易ではありません。

社内にIT部門が存在しない企業も多く、「何をどう導入すればよいかわからない」という状態に陥っています。また、現場の従業員には高齢者や外国人も多く、ITリテラシーにばらつきがあるため、新しいデジタルツールの導入に対して「使いこなせない」「面倒だ」という抵抗感が生まれやすいのも課題です。

業界特有の商習慣とサプライチェーンの複雑さ

食品業界は、生産者、食品メーカー、卸売業、小売業、そして飲食店と、サプライチェーンに関わるプレイヤーが非常に多いのが特徴です。

各社が独自のシステムや伝票フォーマットを使用しており、業界全体でのデータ連携が進んでいません。未だにFAXや電話による受発注が主流であるため、自社だけがデジタル化を進めても、取引先がアナログであれば効果は限定的になってしまいます。この「全体最適」の難しさが、食品業界DXの大きな足かせとなっています。

食品業界DX 成功への5ステップ

これらの課題を乗り越え、DXを成功させるためには、いきなり大きな変革を目指すのではなく、段階的かつ戦略的に進めることが重要です。

1. 解決すべき課題とDXの目的を明確化

避けるべきなのは、「他社がやっているから」といって手段先行でツールを導入することです。まずは、「食品ロスを削減したい」「特定の検品作業を無人化したい」など、自社が抱える課題を特定しましょう。

その上で、「DXによってどのような状態を目指すのか」という明確な目的(KGI/KPI)を設定します。目的が具体的であればあるほど、適切な技術選定が可能になり、社内の合意形成もスムーズになります。

2. スモールスタートでPoC(概念実証)を実施

全工場、全店舗にいきなりシステムを導入するのはリスクが高すぎます。まずは、「一つのライン」「一つの工程」「一つの店舗」に限定して、小さく始める(スモールスタート)ことが鉄則です。

この段階でPoC(概念実証)を行い、「現場で使いこなせるか」「想定通りの効果が出るか」を検証します。小さな成功体験(クイックウィン)を積み重ねることで、現場の不安を解消し、次のステップへの投資判断もしやすくなります。

3. データ収集・活用の基盤を整備

AIやIoTを活用するためには、その燃料となる「データ」が必要です。しかし、多くの現場ではデータが紙の日報に書かれていたり、担当者の頭の中にしかなかったりします。

まずは、紙情報をデジタル化し、蓄積する仕組みを作ることが第一歩です。タブレット入力の導入や、IoTによる自動記録など、「現場に負担をかけずにデータを集める環境」を整えましょう。データが蓄積されて初めて、分析や予測といった高度な活用が可能になります。

4. 現場を巻き込む体制構築と人材育成

DXは、システム部門だけで完結するプロジェクトではありません。実際にシステムを利用するのは現場のスタッフです。計画段階から現場のキーマンを巻き込み、「現場のどのような困りごとを解決するためのシステムなのか」を共有し、意見を取り入れることが不可欠です。

また、導入後の運用を見据えて、社内研修などを通じて従業員のITリテラシーを底上げすることも重要です。「デジタルは自分たちの仕事を楽にしてくれる味方だ」という意識を醸成することが、定着への近道です。

5. 適切なITベンダー・パートナーの選定

自社にIT人材が不足している場合、外部パートナーの協力が不可欠です。この際、単に技術力が高いだけでなく、食品業界特有の事情(衛生管理、HACCP、商習慣など)を深く理解しているベンダーを選ぶことが成功の鍵となります。

現場の泥臭い課題に寄り添い、導入後のサポートまで二人三脚で歩んでくれるパートナーを見つけることができれば、DXの成功確率は飛躍的に高まります。

まとめ

食品業界におけるDXは、もはや「あれば便利なもの」ではなく、人手不足や食品ロス、厳格化する品質管理といった課題を解決し、企業が生き残るための必須の経営戦略です。

スシローやキユーピーのような大手企業の事例も、その本質は「データの活用」と「作業の自動化」にあります。AIやIoTツールの低価格化・クラウド化が進んだ今、中小企業であってもスモールスタートでDXに取り組むことは十分に可能です。

まずは、自社の現場にある「無理・無駄・ムラ」を見つめ直し、「ここをデジタル化できれば楽になるのに」という小さな気づきから始めてみてください。その一歩が、安心・安全で持続可能な食の未来を創るための大きな前進となるはずです。

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