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製造業DXの成功事例15選|課題・技術別のメリット、進まない理由を解説
製造業DXの成功事例15選を課題・技術別に徹底解説。トヨタ、ダイキンなどの大手企業から学ぶ、AI・IoT活用のメリットや、DXが進まない理由と解決策まで、現場目線で詳しく紹介します。
目次
「製造現場のDXを進めたいが、何から手をつければよいかわからない」「他社がどのような技術で成果を出しているのか、具体的な事例を知りたい」
多くの製造業の経営者や現場責任者の方が、このような悩みを抱えています。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」や深刻な人手不足を背景に、製造業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は待ったなしの状況です。しかし、いざ導入しようとすると、コストの壁や現場の抵抗、技術選定の難しさなど、多くの障壁が立ちはだかります。
本記事では、日本トップクラスの製造業DX専門家が、国内外の成功事例15選を「課題別・技術別」に詳しく解説します。単なる事例紹介にとどまらず、DXが進まない根本的な理由や、失敗を避けて成果を出すための具体的なポイントまで網羅しました。
自社の課題に近い事例を見つけ、現場変革のヒントとしてお役立てください。
製造業DXとは?
製造業DXとは、単にアナログ作業をデジタル化するだけでなく、デジタル技術を駆使して製造プロセスやビジネスモデルそのものを根本から変革し、競争上の優位性を確立することです。
- ・製造プロセスの変革:AIやIoTによる自動化、省人化、品質向上
- ・ビジネスモデルの変革:製品販売からサービス提供(コト売り)への転換
- ・企業文化の変革:データドリブンな意思決定が定着した組織への移行
よく混同される「IT化(デジタライゼーション)」は、既存業務の効率化を目的にツールを導入することを指します。これに対しDXは、IT化を手段として活用し、顧客や社会に提供する価値そのものを高めることを最終的なゴールとしています。
また、製造業DXの文脈では「スマートファクトリー」という言葉も頻繁に使われます。これは工場のあらゆる機器やセンサーをネットワークで接続し、データを収集・分析することで、生産管理の最適化や自律制御を実現する工場のことを指します。スマートファクトリーの実現は、製造業DXを推進する上で中核的な要素です。
なぜ今、製造業のDXが急務なのか?
多くの製造企業が今、DXへの取り組みを加速させている背景には、従来の改善活動だけでは対応できない構造的な外部環境の変化があります。
- ・深刻化する人手不足と技術継承の断絶
- ・顧客ニーズの多様化と製品サイクルの短縮
- ・グローバル規模でのサプライチェーンリスク
- ・「2025年の崖」に伴う経済損失の懸念
少子高齢化が進む日本において、製造現場の人手不足は危機的な状況です。特に、長年現場を支えてきた熟練技術者の引退が進む中、彼らが持つ匠の技や暗黙知をいかに形式知化し、次世代へ継承するかが喫緊の課題となっています。若手人材の確保が難しくなる中、デジタル技術による技能のデジタル化や自動化は避けて通れません。
さらに、市場のニーズは「大量生産・大量消費」から「多品種少量生産」へとシフトしました。顧客ごとの細かい要望に応えつつ、海外の競合企業と渡り合うためのコスト競争力や品質を維持するには、柔軟かつ迅速な生産体制の構築が必要です。これに加え、パンデミックや地政学リスクによるサプライチェーンの分断も経験し、調達から配送までのプロセスを可視化し、強靭化することも求められています。
また、経済産業省が指摘する「2025年の崖」問題も無視できません。複雑化・老朽化した既存システム(レガシーシステム)を放置すれば、維持管理費の高騰やセキュリティリスクの増大を招き、2025年以降、年間で最大12兆円の経済損失が生じると予測されています。これらの課題を一挙に解決する手段として、DXが求められているのです。
製造業DXが進まない・失敗する「4つの壁」
DXの必要性を頭では理解していても、実際の現場では変革が思うように進まないケースが散見されます。多くの企業が直面する阻害要因は、主に以下の4点に集約されます。
- 老朽化したレガシーシステムによる技術的な足かせ
- ・変革を推進できるデジタル人材の欠如
- ・投資対効果(ROI)が見えにくいことによる経営判断の遅れ
- ・現状維持を望む現場の心理的な抵抗
それぞれの壁について、詳しく解説します。
1.レガシーシステムの存在
長年にわたり改修を繰り返して運用されてきた基幹システムは、ブラックボックス化していることが少なくありません。これが新しいデジタル技術とのデータ連携を阻む技術的負債となっています。
特定の担当者しか仕様を理解していない属人化したシステムは、クラウドサービスや最新のIoT機器との接続性が低く、データを取り出すだけでも多大な労力を要します。DXを進めるためには、まずこのレガシーシステムを刷新あるいはモダナイズする必要がありますが、そこには多大なコストとリスクが伴うため、二の足を踏む企業が多いのが実情です。
2.DX人材の圧倒的不足
DXを成功させるためには、製造現場の業務知識と、AIやデータ分析などのデジタル技術の両方に精通した人材が必要です。しかし、そのような人材は労働市場全体で枯渇しており、採用は極めて困難です。
社内で育成しようにも、教育プログラムや指導者が不在であるケースが多く、担当者が孤立してしまうこともあります。結果として、外部ベンダーに丸投げしてしまい、社内にノウハウが蓄積されず、主導権を握れないままプロジェクトが頓挫するという失敗パターンに陥りがちです。
3.巨額な初期投資とROIの不透明性
スマートファクトリー化やAI導入には、センサー、通信機器、サーバー、ソフトウェア開発など、多額の初期投資が必要です。しかし、DXによる効果は「品質向上」や「リスク低減」など、金銭的な価値に換算しにくいものも多く、事前の費用対効果(ROI)の試算が困難です。
経営陣が「いつまでに、いくら儲かるのか」という短期的な成果ばかりを求めると、担当者は明確な回答ができず、承認が得られないまま実証実験(PoC)止まりになってしまうことがよくあります。DXは長期的な投資であるという認識の共有が必要です。
4.現場の抵抗と組織の壁
新しいシステムの導入は、現場の作業員にとって「仕事を増やされる」「監視される」「これまでのやり方を否定される」といったネガティブな感情を引き起こすことがあります。
「今のやり方で問題なく回っている」という現状維持バイアスは非常に根強く、現場の協力を得られないままトップダウンで進めようとすると、激しい反発を招きます。また、製造、設計、営業、調達といった部門ごとに組織が縦割りになっており、部門を跨いだデータの共有や連携ができないことも、全体最適を阻む大きな要因です。
製造業DXがもたらすメリット
DXを推進することで、製造業は経営に直結する多大なメリットを享受できます。
- ・生産性の飛躍的向上:自動化による24時間稼働とヒューマンエラーの排除
- ・品質の安定と向上:データに基づいた条件設定と全数検査の実現
- ・コスト削減と利益率改善:不良率低減、在庫適正化、保全費用の抑制
- ・技術継承の効率化:匠の技のデータ化による若手育成スピードの向上
- ・新たなビジネスの創出:データ活用によるサービス型ビジネスへの展開
AIやロボットによる自動化は、単純な労働力不足の解消だけでなく、人間には不可能な速度と精度での作業を可能にします。また、熟練工の「カン・コツ」をデータ化してAIモデルに学習させることで、属人化していたノウハウを組織全体の資産として活用できるようになります。
さらに、製品から得られる稼働データを分析することで、故障する前に部品を交換する「予知保全」が可能になり、メンテナンスサービスという新たな収益源を生み出すことも期待できます。
【課題・技術別】製造業DXの国内・海外成功事例15選
ここからは、実際にDXに取り組み、課題解決に成功した企業の事例を技術別に紹介します。自社の課題と照らし合わせながらご覧ください。
【AI・画像認識】外観検査の自動化と技術継承
人間の「目」に依存していた検査工程や、熟練者の「判断」が必要な工程にAIを導入し、品質安定と省人化を実現した事例です。
事例1:トヨタ自動車
トヨタ自動車では、自動車部品の「磁気探傷検査」においてAIを活用し、検査員の負担軽減と精度の向上を実現しています。
従来、この検査は紫外線を照射して部品の微細な傷を目視で確認するもので、高度な集中力と熟練のスキルが求められていました。精神的・身体的な負担が大きく、見逃しや過剰検出のリスクもゼロではありませんでした。
同社は、数万枚の傷画像データをディープラーニングに学習させ、検査AIを開発。その結果、微細な傷も見逃さない検出精度を実現し、見逃し率ゼロを達成しました。さらに、過検出率も大幅に低減させることに成功。これにより、従来は4名体制で行っていた検査工程を2名に半減させることができ、空いた人員をより付加価値の高い業務へ配置転換することが可能になりました。
事例2:ブリヂストン
ブリヂストンは、タイヤ製造の核心部分である「成形工程」にAI技術を導入し、熟練技能の継承と生産性向上を両立させています。
タイヤ成形は、ゴムなどの部材を重ね合わせていく複雑な工程であり、温度や湿度、部材の微妙な粘着性の変化に合わせて、熟練工が機械の操作を微調整する必要がありました。この「匠の技」をいかに自動化システムに組み込むかが長年の課題でした。
同社は、最新のICT技術「EXAMATION」を開発。熟練工の操作データや判断ロジックをAIに学習させ、センサー情報に基づいてAIが自動で最適な成形条件を制御するシステムを構築しました。これにより、生産性は従来の約2倍に向上し、品質のばらつきも極小化されました。熟練工不足という将来のリスクを解消する画期的な取り組みです。
事例3:ライオン
ライオンでは、オーラルケア製品の開発プロセスにAIを活用し、製品開発のスピードアップと高度化を図っています。
歯ブラシの形状は複雑で、毛の材質、長さ、植毛パターンなどの組み合わせは無数に存在します。従来は熟練の研究者が経験に基づいて試作品を設計し、評価実験を繰り返していましたが、これには膨大な時間とコストがかかっていました。
そこで同社は、過去の膨大な開発データと評価結果をAIに学習させ、目標とする清掃能力や歯茎への優しさを実現するための最適な設計仕様をAIが提案するシステムを構築しました。これにより、試作回数を大幅に削減し、開発期間の短縮を実現。人間の発想だけでは思いつかなかったような革新的な形状の発見にも寄与しています。
【IoT・予知保全】ダウンタイムの削減と安定稼働
設備にセンサーを取り付け、稼働データを収集・分析することで、故障の予兆を捉えて計画的にメンテナンスを行う「予知保全」の事例です。
事例4:トヨタ自動車北海道
トヨタ自動車北海道では、駆動系ユニットを製造する新設ラインにおいて、大規模なIoTシステムを導入し、設備の安定稼働を追求しています。
以前は、設備が故障してから修理を行う「事後保全」や、一定期間ごとに部品交換を行う「予防保全」が主流でした。しかし、突発的な故障によるライン停止(ダウンタイム)や、まだ使える部品を交換してしまうムダが発生していました。
新ラインでは、設備からのデータをリアルタイムで収集・可視化する基盤を整備。電流値や振動などのデータを監視し、通常とは異なる波形が出た時点でアラートを出す「予兆保全」の仕組みを確立しました。これにより、故障が発生する前に対処が可能となり、設備の稼働率向上と保全コストの適正化を実現しています。
事例5:村田製作所
電子部品大手の村田製作所は、世界中の工場をつなぐスマートファクトリー化を推進しており、その一環として設備の予知保全に取り組んでいます。
積層セラミックコンデンサなどの微細な電子部品製造では、装置のわずかな不具合が大量の不良品発生につながります。同社は、製造装置に振動センサーや温度センサーなどを設置し、稼働状況をクラウド上で一元管理しています。
収集したビッグデータを解析することで、装置の故障パターンを特定。異常の兆候が見られた段階で自動的に担当者に通知が飛び、メンテナンスを行う運用を定着させました。この取り組みにより、突発的な設備停止を未然に防ぎ、生産効率を最大化することに成功しています。
事例6:花王
花王は、和歌山工場などの化学プラントにおいて、設備の異常予兆検知システムを導入し、保安力の強化と業務効率化を実現しています。
化学プラントは24時間連続稼働が基本であり、万が一のトラブルは甚大な損害につながります。従来はベテラン運転員がモニターを常時監視し、経験と勘で異常を察知していましたが、これには限界がありました。
同社は、プラント内の数千点に及ぶセンサーデータをリアルタイムでAIが監視するシステムを構築。過去の正常運転データと現在のデータを常に比較し、わずかな乖離(かいり)も見逃さずに検知します。これにより、人間では気づけないレベルの微細な予兆を数時間〜数日前に捉えることが可能になり、余裕を持って対策を打てるようになりました。
【デジタルツイン・シミュレーション】生産ラインの最適化
仮想空間上に現実の工場を再現する「デジタルツイン」技術を活用し、ライン設計や生産計画のシミュレーションを行った事例です。
事例7:ダイキン工業
空調機大手のダイキン工業は、「デジタルファクトリー」構想を掲げ、開発から生産までのリードタイム短縮に取り組んでいます。
同社は、実際の工場の設備配置や人の動きをデジタル空間上に完全に再現。新製品の生産ラインを立ち上げる際、まずは仮想空間でシミュレーションを行い、設備同士の干渉や作業員の動線、ボトルネックになる工程を徹底的に検証します。
これにより、実機での調整期間を大幅に短縮し、量産開始までのスピードを劇的に早めることに成功しました。また、稼働中のラインにおいても、IoTで収集したリアルタイムデータをデジタルツインに反映させ、異常発生時の原因究明や改善策の検証に活用しています。
事例8:三菱電機
三菱電機は、自社のFA機器とデジタルツイン技術を組み合わせ、生産現場の最適化ソリューションを自社工場で実践しています。
名古屋製作所などの主要工場において、3Dシミュレータを活用し、生産ラインの設計段階での検証を強化しました。ロボットの動作プログラムやPLC(制御装置)のプログラムを仮想空間上で検証・デバッグすることで、現場での立ち上げ工数を削減しています。
また、稼働データを用いたシミュレーションにより、段取り替えの効率化や在庫の削減など、既存ラインの生産性改善においても大きな成果を上げています。これらのノウハウは、同社の顧客向けソリューションとしても提供されています。
事例9:川崎重工業
川崎重工業は、航空機や鉄道車両などの複雑な製品開発において、PLM(製品ライフサイクル管理)システムをクラウドベースで刷新し、エンジニアリングチェーンの強化を図っています。
従来は設計、生産技術、製造などの各部門でデータが分断されており、仕様変更の伝達漏れや手戻りが発生していました。同社は、設計から製造、保守に至るまでのBOM(部品表)や技術情報を一元管理する基盤を構築しました。
これにより、各部門が常に最新のデータを参照できるようになり、コンカレントエンジニアリング(同時並行開発)が加速。部門間の連携がスムーズになり、全体としての業務効率化と品質向上を実現しています。
【サプライチェーン・業務プロセス】全体最適と効率化
工場内だけでなく、調達や物流を含めたサプライチェーン全体、あるいは間接業務のプロセスをデジタル化した事例です。
事例10:JFEスチール
JFEスチールは、製鉄所という広大な敷地内における物流と作業プロセスの最適化に、先進的なIT技術を活用しています。
製鉄所では、原材料のヤード管理や、工程間を移動する溶銑の輸送管理が極めて重要です。同社は、GPSやセンサーを活用して、構内の機関車やトラックの位置情報、積載状況をリアルタイムで可視化するシステムを導入しました。
さらに、これらのデータをAIが分析し、最適な輸送ルートや配車計画を自動作成。これにより、輸送待ち時間の短縮とエネルギー効率の向上を実現し、製鉄プロセス全体の生産性を底上げしています。
事例11:日立物流
日立物流(現:ロジスティード)は、サプライチェーン全体のデータを統合管理するプラットフォームを構築し、荷主企業に対して付加価値の高い物流サービスを提供しています。
同社のシステムは、陸・海・空の輸送状況に加え、倉庫内の在庫データや工場の生産計画データなどを連携させることが可能です。これにより、サプライチェーン上のどこに何があるかをリアルタイムで把握できるだけでなく、AIを活用した高精度な需要予測や在庫最適化の提案を行っています。
事例12:ニッスイ
食品メーカーのニッスイは、全国約100カ所の工場や事業所における消耗品の調達業務をデジタル化し、業務効率化とガバナンス強化を実現しました。
以前は、各拠点が個別に業者へ発注を行っており、発注プロセスがバラバラで、価格の妥当性検証や支出の管理が困難でした。そこで、Amazonビジネスなどの購買管理プラットフォームを導入し、発注業務を集約・デジタル化しました。
これにより、商品の検索から発注、承認、支払いまでのプロセスが大幅に簡素化され、経理業務や発注担当者の工数を劇的に削減。さらに、購入品目や金額が可視化されたことで、全社的なコスト削減と不正防止(ガバナンス強化)にもつながりました。
【ロボティクス・R&D】自動化と新たな価値創出
ロボットによる高度な自動化や、研究開発(R&D)領域でのDXにより、新たな価値を生み出している事例です。
事例13:デンソーウェーブ
産業用ロボットメーカーであるデンソーウェーブは、自社工場において「人協働ロボット」とAIを組み合わせ、多品種少量生産に対応した自動化ラインを構築しています。
従来、部品のピッキングや整列といった作業は、形状が不揃いであるため自動化が難しく、人手に頼らざるを得ませんでした。同社は、ディープラーニングを用いた画像認識技術とロボット制御を融合させ、バラ積みされた部品を正確に認識して把持するシステムを実用化しました。
これにより、従来は熟練者にしかできなかった複雑な作業の自動化に成功。省人化と同時に、需要変動に柔軟に対応できる生産体制を確立しました。
事例14:横河電機
制御機器大手の横河電機は、AIを用いて化学プラントの自律制御を行う実験に成功し、世界初となる成果を上げています。
化学プラントの一部には、気象条件や原料の品質変動など複雑な要素が絡み合うため、PID制御(従来の自動制御)では対応できず、ベテランオペレーターが手動でバルブ操作を行っている領域が存在しました。
同社は、強化学習AIを用いた制御技術「FKDPP」を開発。実際のプラントで35日間の連続稼働実験を行い、AIが安全かつ安定的に制御を行えることを実証しました。これは、熟練オペレーターでも難しかった品質の安定化と省エネを同時に実現するものであり、プロセス産業における自律操業への道を切り開く画期的な事例です。
事例15:カシオ計算機/アシックス
カシオ計算機とアシックスは、両社の強みを掛け合わせた共創により、ランナー向けのサービス「Runmetrix」を開発しました。これは製造業が「モノ売り」から「コト売り」へシフトした好例です。
カシオのウェアラブルデバイス技術と、アシックスのスポーツ工学知見を融合。ランナーが腰に装着したモーションセンサーから得られるデータを分析し、フォームの改善点や練習メニューをアプリで提案します。
単にシューズや時計を売るだけでなく、「より速く、怪我なく走りたい」という顧客の体験価値を高めるサービスを提供することで、継続的な顧客接点を持つ新たなビジネスモデルを構築しています。
事例から学ぶ、製造業DXを成功させる5つのポイント
ここまで見てきた成功事例には、共通する成功要因が含まれています。DXプロジェクトを失敗させないために押さえておくべき5つのポイントを解説します。
・経営トップによる明確なビジョンとコミットメント
・スモールスタートによる段階的な拡大
・現場を巻き込んだ目的の共有
・データ活用のための基盤整備
・人材育成と外部パートナーの活用
それぞれのポイントについて、実践的な視点から掘り下げます。
1.経営陣による強力なコミットメント
DXは、現場レベルの改善活動とは異なり、全社的な変革を伴います。そのため、経営トップが「なぜ自社にDXが必要なのか」「DXでどのような会社になりたいのか」という明確なビジョンを示し、不退転の決意でコミットすることが重要です。
トップが曖昧な態度のままだと、現場は「また一時的な流行り言葉か」と冷めた目で見てしまいます。予算や権限を適切にプロジェクトチームに委譲し、部門間の壁を取り払うための調整役として、経営陣が汗をかく必要があります。
2.「スモールスタート」で小さく始める
いきなり全工場をスマートファクトリー化しようとするのは無謀です。初期投資が膨大になり、失敗した際のリスクも大きすぎるからです。
成功している企業の多くは、まず「特定のラインの、特定の検査工程」といった小さな範囲で実証実験(PoC)を行っています。そこで確実に効果が出ることを確認し、現場の納得感を得てから、対象範囲を徐々に広げていくアプローチが定石です。小さな成功体験を積み重ねることが、組織全体のDX機運を高めます。
3.現場を巻き込んだ目的・課題の共有
DXの主役はあくまで「現場」です。IT部門や経営企画室だけで計画を立て、現場にツールを押し付けるやり方は必ず失敗します。
「作業を楽にするため」「安全性を高めるため」といった、現場にとってのメリットを明確に伝え、早い段階から現場のキーマンをプロジェクトに巻き込むことが大切です。現場が抱えている本当の困りごとを吸い上げ、それを解決する手段としてデジタル技術を提案することで、現場は「自分ごとのプロジェクト」として協力してくれるようになります。
4.データ活用のための基盤整備
AIやIoTを活用するためには、その材料となる「データ」が正しく収集・整理されていなければなりません。しかし、多くの工場ではデータが紙で記録されていたり、設備ごとにフォーマットが異なっていたりと、活用できる状態になっていません。
まずは、アナログデータをデジタル化し、異なる設備やシステムのデータを連携できる基盤(データレイクやIoTプラットフォーム)を整備することが、DXの前提条件となります。ここをおろそかにしてAIツールだけ導入しても、期待通りの成果は得られません。
5.人材の育成と外部リソースの活用
社内にDXの専門家がいないからといって、諦める必要はありません。初期段階では、外部のベンダーやコンサルタントの知見を積極的に活用し、プロジェクトを推進させることが賢明です。
ただし、外部に依存し続けるのはリスクがあります。プロジェクトと並行して、社内の若手や意欲のある社員に対し、データ分析やデジタル技術の教育(リスキリング)を行い、徐々に内製化できる領域を広げていくことが理想的です。業務内容を熟知している社内人材こそが、最も強力なDX推進者になり得るからです。
まとめ
製造業におけるDXは、単なる流行やコスト削減のツールではありません。人手不足、技術継承、品質向上、そして激化するグローバル競争といった、製造業が直面する根深い課題を解決し、企業の持続的な成長を実現するための「経営戦略そのもの」です。
本記事で紹介したトヨタ自動車やダイキン工業のような大企業の事例は、確かに規模が大きいですが、その本質的なアプローチは中堅・中小企業にも十分に応用可能です。近年では、安価で導入しやすいクラウド型のAIサービスやIoTツールも充実してきており、企業規模を問わずDXに挑戦できる環境は整いつつあります。
重要なのは、以下のステップを着実に踏むことです。
・目的の明確化:自社の解決すべき課題は何かを特定する
・スモールスタート:小さな範囲で技術を試し、効果を検証する
・現場との共創:現場の声を尊重し、一体となって変革を進める
まずは、「自社のどの工程にボトルネックがあるか」「どの作業を自動化できれば現場が楽になるか」を現場と話し合うことから始めてみてはいかがでしょうか。その小さな対話が、御社の大きな変革への第一歩となるはずです。
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