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【2025年】DX補助金の種類|申請方法や採択率を高めるコツ、注意点
DX推進に使える補助金・助成金を徹底解説。IT導入補助金、事業再構築補助金、ものづくり補助金などの種類から、対象経費、申請方法、そして採択率を高める事業計画書作成のコツまで、中小企業のDX投資を支援する情報を網羅します。
目次
「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する必要性は理解しているが、そのための初期投資が大きな負担だ」「新しいITツールやシステムを導入したいが、資金面に不安がある」。多くの中小企業の経営者や担当者が、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。
デジタル技術を活用したビジネス変革は、今や企業の競争力を維持・向上させるために不可欠な取り組みです。しかし、その推進には多くの場合、少なくないコストが伴います。
このような企業の挑戦を後押しするために、国や地方自治体は、DX推進に活用できる様々な「補助金」や「助成金」の制度を用意しています。これらの制度を賢く活用することで、DX推進にかかる投資負担を大幅に軽減し、変革への取り組みを加速させることが可能です。
この記事では、2025年(令和7年)の最新情報に基づき、DX推進に活用できる主要な補助金の種類から、具体的な申請手続きの流れ、そして審査を通過し採択されるための重要なポイントまで、分かりやすく解説していきます。
DX補助金とは?
DX補助金とは、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために必要なITツールの導入や、新しいシステムの構築、あるいは専門家によるコンサルティングなどにかかる費用の一部を、国(経済産業省、中小企業庁など)や地方自治体が補助する制度の総称です。
これは、日本経済全体における企業のデジタル化投資を促進し、特に中小企業の生産性向上や競争力強化を強力に支援することを主な目的としています。DXの推進は、個々の企業の課題であると同時に、日本全体の経済成長に関わる国家的な課題として位置づけられており、そのための財政的な支援策が数多く用意されているのです。
DX補助金の役割と位置づけ
多くの企業、特に資金力やIT人材に限りがある中小企業にとって、DX推進の第一歩を踏み出す上での最大の障壁の一つが「初期投資コスト」です。新しい会計ソフトを導入するにも、ECサイトを構築するにも、あるいは工場の設備にセンサーを取り付けるにも、一定の費用がかかります。
DX補助金は、このDX推進にかかる初期投資の負担を軽減し、企業が変革への挑戦をしやすくするための「呼び水」として、非常に重要な役割を果たします。補助金を活用することで、これまでコスト面で見送っていたITツールの導入や、新しいビジネスモデルへの挑戦が可能になり、DX推進への取り組みを加速させることができます。
補助金と助成金の違いについて
「補助金」と似た言葉に「助成金」があります。この二つの言葉は、厳密には異なる性質を持っていますが、しばしば混同されて使われることもあります。
一般的に、「助成金」(主に厚生労働省が管轄するものが多い)は、雇用促進や労働環境の改善など、定められた要件(例えば、特定の研修の実施や、制度の導入など)を満たせば、原則として受給できる可能性が高いものを指します。予算の上限はあるものの、要件を満たすことが重要です。
一方、「補助金」(主に経済産業省が管轄するものが多い)は、新規事業や技術開発、設備投資といった、国の政策目的に合致する優れた事業計画を支援するものです。そのため、申請しても必ず採択されるわけではなく、公募期間内に提出された事業計画書の内容が審査され、その中から評価の高いものが選ばれる(採択される)必要があります。予算枠に対して応募が多ければ、競争率は高くなります。
本記事で紹介する「IT導入補助金」や「事業再構築補助金」などは、厳密には「補助金」に分類されますが、本稿では、企業のDX推進を支援する公的な資金援助制度の総称として、広い意味で「DX補助金」という言葉を使用します。
DX補助金が注目される社会的背景
国が多額の予算を投じて、企業のDX推進を補助金制度で支援している背景には、日本経済全体が抱える、いくつかの深刻な課題認識があります。
「2025年の崖」問題への対策
経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」では、多くの日本企業が抱える老朽化した基幹システム(レガシーシステム)が、DX推進の大きな足かせとなっていると指摘されました。これらのシステムを刷新できず、デジタル変革に対応できない場合、2025年以降、最大で年間12兆円もの経済的損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしました。これが、いわゆる「2025年の崖」問題です。
この深刻な事態を回避するためには、企業がレガシーシステムから脱却し、クラウドベースなどの柔軟で新しいシステムへと移行することが急務です。DX補助金は、このシステムの刷新や、データ連携基盤の構築にかかる企業の投資負担を軽減し、DXの前提となるIT基盤の近代化を後押しするという、重要な政策的な狙いを持っています。
中小企業の生産性向上支援
日本の企業の99%以上を占める中小企業は、日本経済の活力の源泉です。しかし、大企業と比較して、デジタル化やITツールの活用において遅れを取りがちであり、その労働生産性も低い水準に留まっていることが、長年の課題とされてきました。
人手不足が深刻化する中で、中小企業の生産性を底上げしなければ、日本経済全体の成長は望めません。そこで、特に中小企業をメインターゲットとして、比較的安価なSaaS(クラウドサービス)などのITツール導入から、革新的な設備投資まで、DXの様々な段階に応じた補助金制度を設けることで、中小企業の生産性向上と経営体質の強化を支援し、日本経済全体の活性化を図るという目的があります。
新型コロナウイルス感染症の影響
2020年以降の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、奇しくも日本企業のデジタル化の遅れを浮き彫りにし、DX推進の必要性を一気に加速させました。
- ・非対面・非接触型ビジネスモデルへの転換:飲食店におけるテイクアウト・デリバリー対応、小売業におけるECサイトの強化、あるいはオンライン診療の導入など、従来の対面サービスに代わる、非接触型のビジネスモデルへの転換が急務となりました。
- ・テレワーク環境の整備:出社制限や外出自粛に対応するため、従業員が自宅からでも安全かつ効率的に業務を行えるよう、クラウドサービスの導入や、セキュリティ対策の強化といったテレワーク環境の整備が求められました。
DX補助金制度(特に事業再構築補助金など)は、こうしたコロナ禍で顕在化した新たな社会・経済の変化に対応するための、企業の業態転換や、新しい働き方の導入を支援するという側面も強く持っています。
【2025年最新】DX推進に活用できる主要な国の補助金制度
国のDX関連補助金は、その目的や対象に応じて多岐にわたります。また、制度内容や予算、公募期間は年度によって変更される(あるいは終了・新設される)可能性があるため、必ず経済産業省や中小企業庁、あるいは各補助金の公式サイトで最新の公募要領を確認する必要があります。
ここでは、2025年(令和7年)時点において、特に中小企業にとって活用しやすく、代表的とされる3つの補助金制度を紹介します。
1. IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が、自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際の経費の一部を補助することで、業務効率化や生産性向上、インボイス制度への対応などを支援する制度です。DXの第一歩である、業務プロセスのデジタル化(デジタライゼーション)に最適な補助金として、非常に多くの企業に活用されています。
- 対象経費例
- ・ソフトウェア購入費・クラウドサービス利用料:会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、勤怠管理システム、顧客管理(CRM/SFA)ツール、ECサイト制作ソフトなど、事前に事務局に登録されたITツールが対象です。
- ・導入関連費用:導入コンサルティング費用や、導入設定・マニュアル作成、研修費用なども、ツールの導入と一体のものとして補助対象となる場合があります。
- 補助率・補助額・申請枠 IT導入補助金は、導入するITツールの目的や機能に応じて、複数の「枠」に分かれているのが特徴です。
- ・通常枠:自社の課題解決に資するITツール導入を支援する基本的な枠です。
- ・インボイス枠(電子取引類型・インボイス対応類型):2023年10月に開始されたインボイス制度に対応するための会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトなどの導入を重点的に支援する枠です。補助率が引き上げられている場合があります。
- ・セキュリティ対策推進枠:サイバー攻撃のリスク低減を目的としたセキュリティ対策ツール(例えば、ウイルス対策ソフトや、EDR製品など)の導入を支援する枠です。
- ・複数社連携IT導入枠:複数の事業者が連携してITツールを導入し、地域経済の活性化などを図る取り組みを支援します。
- 補助率や補助上限額は、これらの枠や導入するツールの機能数によって、例えば「補助率1/2以内、上限150万円」や「補助率3/4以内、上限50万円」といった形で細かく定められています。
- 特徴
IT導入補助金は、申請にあたって「IT導入支援事業者」として事務局に登録されたベンダーと共同で事業計画を作成・申請する必要があります。つまり、補助金対象として登録されたツールと、それを提供する登録ベンダーをセットで選ぶことが前提となります。
2. 事業再構築補助金
事業再構築補助金は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業や中堅企業が、新分野への展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編といった、思い切った「事業再構築」に挑戦する際の設備投資などを支援する、非常に大型の補助金制度です。
DX投資は、この「事業再構築」を実現するための有力な手段として、広く補助対象となっています。単なる業務効率化に留まらず、デジタル技術を活用して新しいビジネスモデルへの転換を図るといった、「攻めのDX」に挑戦する際に活用できます。
- 対象経費例
- ・システム構築費用:新しいサービスを提供するためのプラットフォーム開発費用や、大規模な基幹システムの刷新費用。
- ・クラウドサービス利用費:新規事業に必要なクラウドサーバー費用や、SaaS利用料。
- ・専門家経費:DX戦略の策定やシステム設計に関するコンサルティング費用。
- ・研修費:新しいシステムを運用するための従業員向け研修費用。
- (その他、建物費、機械装置費、広告宣伝費なども対象となり得ます)
- 補助率・補助額・申請枠
- 事業再構築補助金は、企業の規模や取り組みの内容に応じて、非常に多様な申請枠が設定されており、補助上限額も数千万円から1億円超と、他の補助金に比べて非常に大きいのが特徴です。
- ・成長枠:成長分野(グリーン成長など)への事業再構築に取り組む場合。
- ・産業構造転換枠:国内市場が縮小している業種から、需要が拡大している業種への転換を図る場合。
- ・最低賃金枠:最低賃金の引き上げに対応するために、生産性向上に取り組む場合。 など、公募回ごとに様々な枠が設定されます。補助率も、中小企業で1/2から2/3、中堅企業で1/3から1/2など、枠や条件によって変動します。
- 特徴
申請にあたっては、「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」と呼ばれる、国が認定した専門家(金融機関、税理士、中小企業診断士など)と共同で、詳細な事業計画書を策定することが必須となります。事業の革新性や収益性、実現可能性などを、具体的かつ論理的に説明する必要があります。
3. ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
ものづくり補助金は、その名の通り、元々は製造業(ものづくり)の生産性向上を支援する制度でしたが、現在では商業・サービス業も含めた幅広い中小企業が対象となっています。生産性向上に資する革新的な製品・サービス開発や、生産プロセス・サービス提供方法の改善(例えば、省人化、効率化)のための設備投資などを支援する制度です。
DXに関連する設備投資や、AI・IoTを活用したシステム構築なども、生産性向上に繋がる取り組みとして広く補助対象となります。
- 対象経費例
- ・機械装置・システム構築費:最新の製造設備、ロボット、AI画像検査装置、IoTセンサーの導入費用、あるいはそれらを連携させるシステム構築費用。
- ・技術導入費:特定の技術(特許など)を導入するための費用。
- ・専門家経費:技術指導やコンサルティングを受けるための費用。
- (その他、運搬費、クラウドサービス利用費なども対象となり得ます)
- 補助率・補助額・申請枠
- ものづくり補助金も、取り組みの内容に応じて複数の申請枠が設定されています。
- ・通常枠:革新的な製品・サービス開発や生産プロセス改善のための設備投資。
- ・回復型賃上げ・雇用拡大枠:業況が厳しい中で、賃上げや雇用拡大に取り組む事業者の設備投資。
- ・デジタル枠:DXに資する革新的な製品・サービス開発や、デジタル技術を活用した生産プロセス改善。
- ・グリーン枠:温室効果ガスの削減に資する製品・サービス開発や、生産プロセス改善。 補助率は原則1/2(小規模事業者は2/3)、補助上限額は申請枠や従業員規模によって750万円から数千万円と設定されています。
- 特徴
「革新性」が審査のポイントの一つとなるため、単なる既存設備の置き換えではなく、自社にとって新しい取り組みであることや、生産性向上に明確に寄与することを、事業計画書で示す必要があります。
地方自治体によるDX関連補助金
国の補助金制度に加えて、各都道府県や市区町村が、地域経済の活性化や、地場産業の課題解決を目的として、独自のDX関連補助金・助成金制度を設けている場合があります。
これらの制度は、国の補助金に比べて補助上限額は低い(数十万円から数百万円程度)傾向にありますが、その分、申請のハードルが低かったり、より地域の実情に合った幅広い経費(例えば、小規模なホームページ改修費用など)が対象となったりする場合があります。
例えば、東京都中小企業振興公社が実施する「DX推進緊急対策事業助成金」や、各県が実施する「中小企業DX推進補助金」など、様々な制度が存在します。
国の補助金と併用できる場合や、国の補助金に採択されなかった場合の受け皿となる場合もあります。まずは自社が所在する都道府県や市区町村の産業振興課などのウェブサイトを確認し、活用できる制度がないかを情報収集することが重要です。
DX補助金の対象となる主な経費
補助金の種類によって、対象となる経費の範囲は厳密に定められていますが、一般的にDX推進に関連する以下のような費用が対象となることが多いです。ただし、必ず最新の公募要領で、申請する枠の対象経費を正確に確認する必要があります。
ソフトウェア・クラウドサービス利用料
- 会計ソフト、給与計算ソフト、勤怠管理システム
- 受発注システム、在庫管理システム、顧客管理(CRM)、営業支援(SFA)ツール
- グループウェア、プロジェクト管理ツール
- ECサイト構築・運用サービス
- SaaS(Software as a Service)などのクラウドサービスの月額・年額利用料
補助対象となる期間には制限がある場合があります。
システム構築・開発費用
- 業務システム(基幹システムなど)のスクラッチ開発(オーダーメイド開発)費用
- 既存システムの改修・カスタマイズ費用
- ECサイトやモバイルアプリの構築費用
- データ連携基盤(API連携など)の開発費用
ハードウェア導入費用
- PC、タブレット端末、スマートフォン
- サーバー、ストレージ、ネットワーク機器(ルーター、スイッチなど)
- POSレジ端末、キャッシュレス決済端末
補助金によっては、ハードウェアの購入費用は対象外となる場合や、レンタル・リースのみが対象となる場合、あるいはソフトウェアと一体不可分の場合のみ対象となるなど、厳しい条件が付いていることが多いので注意が必要です。
専門家経費(コンサルティング費用)
- DX戦略の策定支援を依頼したコンサルタントへの謝金・旅費
- ITツールの選定・導入支援を依頼した専門家への経費
- 業務プロセスの見直し(BPR)に関するコンサルティング費用
研修費用
- 従業員向けのITスキル研修(例えば、Excel応用講座や、クラウドツールの使い方研修など)の受講費用
- DX推進人材を育成するための専門講座の受講費用
補助金によっては、研修費は対象外となる場合や、専門家経費の一部として扱われる場合があります。
DX補助金申請の基本的な流れ【5ステップ】
補助金の申請プロセスは制度によって詳細が異なりますが、一般的には以下のステップで進みます。特に、補助金は原則として「後払い」であるという点を理解しておくことが重要です。
1. 情報収集と対象補助金の選定
まずは、自社が取り組みたいDX計画(例えば、会計ソフトを導入したい、AIで需要予測をしたい、など)に合致し、かつ自社が申請要件(資本金、従業員数、業種など)を満たす補助金制度を探します。
国の主要な補助金(IT導入補助金、事業再構築補助金、ものづくり補助金など)の公式サイトや、中小企業庁のポータルサイト「ミラサポplus」、中小機構の「J-Net21」などで最新の公募情報を確認します。また、前述の通り、所在地の地方自治体の制度も調査します。
利用する補助金制度を決めたら、最新の「公募要領」を徹底的に熟読し、目的、対象者、対象経費、補助率・上限額、申請スケジュール、審査項目などを正確に理解します。
2. 事業計画書の作成
補助金の審査において、採択・不採択を分ける最も重要な書類が「事業計画書」です。公募要領で求められている項目に従い、以下の内容を具体的かつ論理的に記述します。
- 自社の現状の経営課題(なぜDXが必要なのか)
- 導入するITツールやシステム、その選定理由
- DXによる具体的な解決策(導入したツールを、どの業務に、どのように活用するのか)
- 導入によって得られる具体的な効果(例えば、「生産性が〇〇%向上する」「コストが年間〇〇円削減できる」「新規顧客が〇〇人増加する」といった、できるだけ定量的な目標)
- 事業の実現可能性(実施体制、スケジュール、資金計画など)
この事業計画書の質が、採択率に直結します。
3. 申請手続き(電子申請が主流)
事業計画書をはじめとする必要な申請書類(財務諸表、履歴事項全部証明書など)を準備し、申請手続きを行います。近年、国の主要な補助金の多くは、政府共通の電子申請システム「Jグランツ」を通じた電子申請が主流となっています。Jグランツを利用するためには、事前に「GビズID」という法人・個人事業主向けの共通認証IDを取得しておく必要があります(取得には数週間かかる場合があるため、早めの準備が必要です)。
4. 審査・採択結果の通知
申請締切後、補助金の事務局(あるいは外部の専門家)による審査が行われます。審査は、事業計画書の内容が補助金の趣旨に合っているか、計画に具体性や実現可能性があるか、投資対効果は妥当か、といった観点で行われます。
審査には通常1ヶ月から数ヶ月程度かかり、その後、申請者に対して採択または不採択の結果が通知されます。
5. 事業実施・実績報告・補助金の受給
採択の通知(「交付決定通知」)を受け取ったら、その通知日以降に、事業計画書に記載したITツールの発注・契約・導入・支払いなど、補助事業を実際に実施します。
そして、計画していた事業が全て完了した後、定められた期限内に、「実績報告書」と、実際にかかった経費の証憑(しょうひょう)書類(見積書、契約書、請求書、領収書、銀行振込控など)一式を事務局に提出します。
事務局は、提出された実績報告書と証憑書類を精査し、計画通りに正しく事業が実施され、経費が支払われたかを確認(確定検査)します。この検査を経て、補助金の金額が最終的に確定し、その後、申請者の銀行口座に補助金が振り込まれます。このように、補助金は原則として「後払い」であり、事業実施に必要な資金は一旦自社で全額立て替える必要がある点に、十分な注意が必要です。
DX補助金の採択率を高める3つのポイント
補助金は、申請すれば必ず採択されるわけではありません。限られた予算枠の中で、他の申請者よりも優れた事業計画であると評価される必要があります。ここでは、審査を通過し、採択率を高めるために押さえておくべき重要なポイントを3つ紹介します。
1. 事業計画書の質を高める
採択・不採択の命運を握るのが、事業計画書の質の高さです。審査員は、その計画書だけで、あなたの会社の事業内容や、補助金を使って行おうとしている取り組みの価値を判断しなければなりません。
自社が抱える具体的な経営課題(なぜ今、DXが必要なのか)、導入しようとしているITツールやシステムが、その課題をどのように解決するのか(具体的な活用方法)、そして導入後に、どのような定量的・定性的な効果(例えば、生産性向上率、コスト削減額、新規売上高、従業員の負担軽減など)が、いつ頃までに期待できるのかを、客観的なデータや具体的な根拠に基づいて、審査員に「なるほど、この投資は価値がある」と納得してもらえるよう、分かりやすく、かつ説得力を持って記述することが最も重要です。
2. 補助金の目的・趣旨との整合性
それぞれの補助金制度には、国がその制度を設けた「目的」や「趣旨」(例えば、IT導入補助金であれば「中小企業の生産性向上とインボイス制度への対応支援」など)が、公募要領に必ず明記されています。
審査員は、申請された事業計画が、その補助金の目的・趣旨にどれだけ合致しているかを厳しく評価します。したがって、事業計画書を作成する際には、自社の取り組みが、その補助金制度が目指す政策的なゴール(例えば、生産性向上、事業再構築、デジタル化など)に、どのように貢献するのかを明確に、かつ具体的にアピールする必要があります。目的から外れた独りよがりな計画では、採択される可能性は低くなります。
3. 加点項目の確認と対策
多くの補助金制度では、特定の要件を満たす場合に、審査において「加点」される仕組みが設けられています。これは、国が特に推進したい政策(例えば、賃上げ、セキュリティ対策、地域経済への貢献など)に取り組む企業を優遇するためのものです。
公募要領には、必ずこの加点項目が記載されています(例:「賃上げ計画を策定・表明している」「SECURITY ACTIONの宣言を行っている」「地域未来牽引企業に選定されている」など)。
申請にあたっては、これらの加点項目を事前に詳細に確認し、自社が対応可能、あるいはこれから対応できるものについては、積極的に計画に盛り込み、必要な添付書類を準備することが、採択率を高める上で非常に有効な戦略となります。
DX補助金申請における注意点・よくある失敗
補助金は、手続きが複雑であったり、厳格なルールが定められていたりするため、申請やその後のプロセスで失敗してしまうケースも少なくありません。ここでは、特に注意すべき点をいくつか挙げます。
公募期間や申請要件の見落とし
補助金には、必ず厳格な「公募期間(申請受付期間)」が定められています。この期間を1分でも過ぎると、申請は一切受け付けられません。また、対象となる事業者の要件(資本金、従業員数、業種など)や、対象となる経費の範囲も細かく定められています。
これらの要件やスケジュールを、最新の公募要領で正確に確認・理解していないと、申請の準備が無駄になったり、そもそも申請資格がなかったりする事態に陥ります。
事業計画の具体性・実現可能性の不足
事業計画書の内容が、「DXを推進して売上を上げたい」といった曖昧で精神論的な表現に終始し、具体的なアクションプランや、その効果を裏付ける数値的な根拠に乏しい場合、審査員から「実現可能性が低い」と判断され、不採択となる可能性が高いです。
「どのベンダーの、どのツール(SaaS)を導入し、それによって、これまで手作業で〇時間かかっていた〇〇という業務が、〇時間短縮される。その結果、年間〇〇円の人件費削減と、〇〇件の新規顧客対応が可能になり、売上が〇〇%向上する見込みである」といったレベルまで、具体的かつロジカルに記述する必要があります。
補助金交付前の発注・支払い
これは補助金制度における最も重要なルールの一つですが、原則として、補助金の「交付決定通知」を受け取る前に、発注・契約・支払いなどを行った経費は、補助対象外となります。
補助金に採択されることを見越して、先にITツールを契約・導入してしまう(いわゆる「フライング発注」)と、たとえ後から採択されたとしても、その経費は補助金の対象として認められず、全額自己負担となってしまいます。必ず、交付決定通知書に記載された日付以降に、事業を開始する必要があります。
実績報告の不備
補助金は、事業が完了した後に提出する「実績報告書」と、実際にかかった経費の支払いを示す証憑書類(見積書、発注書、契約書、納品書、請求書、領収書、銀行振込控など)一式が、事務局によって厳格に審査された上で、初めて交付されます。
もし、これらの報告書類や証憑書類に不備があったり、計画と異なる内容の支出が行われていたりした場合、その経費が認められず、補助金が減額されたり、最悪の場合、交付されない可能性もあります。事業期間中から、証憑書類を正確に管理・保管しておくことが極めて重要です。
DX補助金に関する情報収集の方法
補助金制度は、毎年のように内容が変更されたり、新たな制度が創設されたり、あるいは公募期間が短かったりするため、常に最新の情報をキャッチアップし続けることが重要です。
中小企業庁・経済産業省のWebサイト
IT導入補助金、事業再構築補助金、ものづくり補助金といった、国の主要な補助金については、中小企業庁や経済産業省のWebサイト、あるいは各補助金の専用ポータルサイトに、最新の公募要領やスケジュール、採択結果などが掲載されます。まずはこれらの公式サイトを確認するのが基本です。
J-Net21(中小機構)
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、中小企業向けの経営支援情報ポータルサイト「J-Net21」内にある「支援情報ヘッドライン」では、国や都道府県、市区町村、各種支援機関が提供する、補助金・助成金・融資などの情報を横断的に検索することができます。自社が活用できる可能性のある制度を幅広く探すのに便利です。
地域のよろず支援拠点・商工会議所
各都道府県に設置されている「よろず支援拠点」や、地域の商工会議所・商工会では、中小企業の経営に関する様々な相談に応じており、その一環として、活用可能な補助金・助成金に関する情報提供や、申請に関するアドバイスを行ってくれます。身近な相談先として活用すると良いでしょう。
認定経営革新等支援機関(認定支援機関)
前述の通り、事業再構築補助金や、ものづくり補助金の一部の枠など、補助金の種類によっては、国が認定した専門家である「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」(金融機関、税理士、公認会計士、中小企業診断士、コンサルティング会社など)と共同で事業計画書を策定することが、申請の必須要件となっている場合があります。
これらの認定支援機関は、補助金申請に関する豊富なノウハウを持っていることが多いため、対象となる補助金を探す段階から相談してみるのも有効な方法です。
まとめ
本記事では、DX推進に活用できる主要な補助金制度について、その種類から申請プロセス、そして採択率を高めるためのポイントまで、網羅的に解説しました。
DX補助金は、特に資金力や人材に限りがある中小企業にとって、DX推進の大きなハードルとなる初期投資の負担を軽減し、変革への挑戦を後押ししてくれる重要な支援策です。IT導入補助金、事業再構築補助金、ものづくり補助金など、自社の目的や規模に合った制度を適切に選択することが重要です。
ただし、補助金は申請すれば必ず採択されるものではなく、その獲得には明確な目的意識と、具体的で説得力のある事業計画書の作成が不可欠です。また、補助金は原則として後払いであることや、厳格な手続きが必要であるといった注意点も理解しておく必要があります。国の支援制度を賢く活用し、自社のDX推進を加速させ、厳しい競争環境を勝ち抜くための一助としてください。
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