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デジタル化とは?DXとの違い・メリットから推進ステップまで解説

デジタル化とは何か、その意味をDX・IT化との違いから初心者にもわかりやすく解説。なぜ今デジタル化が急務なのか?メリット、課題、そして業務プロセスを可視化し改善する具体的な推進ステップまで、事例やSaaSツールを交えて徹底紹介します。

目次

  1. デジタル化とは何か?
  2. デジタル化とDX、デジタイゼーション、デジタライゼーションの違い
  3. なぜ今、デジタル化の推進が求められるのか?
  4. デジタル化が企業にもたらす具体的なメリット
  5. デジタル化推進における課題と注意点
  6. デジタル化を成功させるための推進ステップ
  7. 【業務別】デジタル化の具体例
  8. デジタル化を支援するツール・サービス
  9. まとめ

「デジタル化」という言葉が、ビジネスシーンから日常生活に至るまで、あらゆる場面で使われるようになりました。「ペーパーレス化を進めよう」「あの業務をデジタル化しよう」といった会話は、多くの企業で交わされていることでしょう。

しかし、その一方で、「デジタル化とは、具体的に何をすることなのか」「よく聞くDX(デジタルトランスフォーメーション)とはどう違うのか」「単なるIT化と同じことではないのか」と、その正確な意味や目的を掴みきれていない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、そんな「デジタル化」の基本的な意味から、混同されがちなDXとの明確な違い、そして企業がデジタル化を推進すべき理由、具体的なメリットや導入ステップ、さらには推進における課題まで分かりやすく解説していきます。

デジタル化とは何か?

「デジタル化」とは、アナログな情報や、従来人手で行われてきた業務プロセスを、デジタル形式(コンピュータで扱えるデータ)に変換し、活用することを指します。

広義には、デジタル技術を使って業務効率化を図ったり、ビジネスモデルを変革したりしていくプロセス全体を意味する言葉として使われる場合もあります。

しかし、より厳密にDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で語られる際には、後述する「デジタイゼーション」(アナログからデジタルへのデータ変換)や「デジタライゼーション」(特定業務のデジタルによる効率化)といった、DXという最終的な経営変革に至るまでの段階的な取り組みを総称する言葉として使われることが一般的です。

デジタル化の基本的な意味合い

デジタル化の最も基本的な活動は、物理的なものや、これまでアナログな形式で管理されていた情報を、コンピュータシステムで処理・蓄積・活用できるデジタルデータに置き換えることから始まります。

  • ・紙の書類をスキャンしてPDFデータにする。
  • ・対面での会議を録音して音声データにする。
  • ・顧客アンケート(紙)の結果をExcelに入力する。
  • ・フィルム写真をデジタルカメラで撮影し、画像データにする。

これらは全て、アナログ情報をデジタル形式に変換する「デジタイゼーション」と呼ばれる活動です。このデジタルデータ化が、あらゆるDXの土台となります。

目的は業務効率化と新たな価値創造

デジタル化は、単に紙をデータに置き換えること自体が目的ではありません。その先にある、二つの大きな目的を達成するための手段です。

  • ・業務効率化と生産性向上
    • 情報をデジタルデータとして扱うことで、検索、共有、複製、集計といった作業が、アナログ管理とは比較にならないほど迅速かつ正確に行えるようになります。これにより、業務の無駄を省き、生産性を向上させることが、デジタル化の主要な目的の一つです。
  • ・データ活用による新たな価値創造
    • デジタル化によって蓄積されたデータを分析することで、これまで見えなかった新たな知見(インサイト)を得ることができます。例えば、顧客データを分析して新しいニーズを発見したり、業務データを分析してプロセスのボトルネックを特定したりできます。このデータを活用して、既存のサービスを改善したり、全く新しい製品やビジネスモデルを創出したりすること。これが、デジタル化が目指す、より高度な目的であり、DXへと繋がる道筋です。

デジタル化とDX、デジタイゼーション、デジタライゼーションの違い

デジタル化に関連する言葉として、「DX」「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」といった用語があります。これらはしばしば混同されて使われがちですが、そのスコープ(範囲)と目的(目指すレベル)には明確な違いがあります。

これらの関係性を理解することは、自社の取り組みがどの段階にあるのかを客観的に把握し、次のステップに進むために非常に重要です。結論から言うと、DXが最終的な「経営変革」というゴールであるのに対し、デジタイゼーションとデジタライゼーションは、そのゴールに至るための「段階的なプロセス(手段)」です。そして「デジタル化」は、これらのプロセスを総称する言葉として使われることが多いです。

デジタイゼーション(Digitization):アナログからデジタルの変換

デジタイゼーションは、DXに向けた最も基礎的な最初の段階です。これは、前述したように、これまでアナログ形式で存在していた情報を、デジタル形式のデータに変換(Digitize)することを指します。

  • 例:
    • ・紙の契約書や請求書をスキャンしてPDFファイルにする。
    • ・紙の図面をCADデータに変換する。
    • ・会議の音声を録音してMP3ファイルにする。
    • ・紙の顧客名簿をExcelに入力する。

この段階は、あくまでアナログ情報をデジタルデータに「置き換えた」だけであり、業務プロセスそのものは大きく変わっていない場合もあります。しかし、このデータ化がなければ、次のデジタライゼーションや、その先のDXに進むことはできません。

デジタライゼーション(Digitalization):特定プロセスのデジタル化

デジタイゼーションの次の段階が、デジタライゼーションです。これは、デジタル化された情報を活用し、特定の業務プロセス全体をデジタル技術で効率化・自動化することを指します。個別の情報のデジタル化から一歩進んで、業務の「流れ(プロセス)」をデジタルで最適化する取り組みです。

  • 例:
    • ・タイムカード(紙)での打刻とExcelでの集計をやめ、勤怠管理システムを導入し、打刻から給与計算システムへのデータ連携までを自動化する。
    • ・紙の稟議書を回覧するのをやめ、ワークフローシステムを導入し、申請から承認までのプロセスをオンラインで完結させる。
    • ・電話やメールで受けていた顧客からの問い合わせを、CRM(顧客管理システム)で一元管理し、対応履歴を可視化する。

多くの企業が「IT化」や「業務効率化」として取り組んでいるのが、このデジタライゼーションの段階です。これは、既存の業務をより効率的に行う「部分最適」や「守りのDX」とも言えます。

デジタルトランスフォーメーション(DX):ビジネスモデル全体の変革

そして最も高次の段階が、DX(デジタルトランスフォーメーション)です。これは、デジタイゼーションやデジタライゼーションを基盤としつつ、デジタル技術の活用を「前提」として、製品・サービス、ビジネスモデル、組織構造、企業文化といった、企業活動のあらゆる側面を根本から「変革」し、新たな価値を創造し、競争優位性を確立することを目指します。

  • 例:
    • ・DVDレンタル事業を行っていた企業が、店舗(アナログ)とDVD(物理)という制約を捨て、動画ストリーミング配信サービス(デジタル)へとビジネスモデルを完全に転換する(例:Netflix)。
    • ・自動車メーカーが、単に車(モノ)を売るだけでなく、車から得られる走行データ(デジタル)を活用し、保険やメンテナンスといったサービス(コト)を提供するモビリティカンパニーへと変革する。
    • ・建設機械メーカーが、機械にセンサー(デジタル)を搭載し、その稼働データに基づいて顧客の現場の生産性を支援するソリューション事業を展開する(例:コマツ)。

DXは、単なる業務改善に留まらず、企業の存在意義や競争のルールそのものを変えてしまう、より広範で戦略的な「全体最適」であり、「攻めのDX」を含む概念です。

デジタル化はDX実現の「手段」

このように整理すると、デジタイゼーション(アナログ→デジタル変換)やデジタライゼーション(個別プロセスの効率化)といった「デジタル化」の取り組みは、最終的なゴールである「DX(ビジネスモデル全体の変革)」を達成するための、重要かつ不可欠な「手段」あるいは「ステップ」であると位置づけることができます。

デジタル化なくしてDXは実現できませんが、デジタル化を進めただけで自動的にDXが達成されるわけでもありません。デジタル化によって得られたデータや効率化されたプロセスを、いかにして新たな価値創造やビジネス変革に繋げていくか、という戦略的な視点こそが、DXの本質と言えるでしょう。

なぜ今、デジタル化の推進が求められるのか?

デジタル化の推進は、もはや「やってもやらなくても良い」という選択肢ではなく、変化の激しい現代の市場環境において、企業が生き残り、持続的に成長していくための必須条件となっています。その背景には、企業を取り巻く外部環境の変化と、内部に抱える構造的な問題があります。

労働人口減少下での生産性向上

日本は、少子高齢化の進展により、生産年齢人口(15歳から64歳)が長期的な減少トレンドに入っています。あらゆる産業、特に労働集約的な業務が多い業界において、人手不足はますます深刻化していくことが確実視されています。

このような状況下で、企業がこれまでと同じ、あるいはそれ以上の事業成果を上げていくためには、限られた人材で、より高い生産性を維持・向上させることが絶対条件となります。

デジタル化は、この課題に対する最も有効な解決策の一つです。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化、クラウドツールの活用による情報共有の迅速化、ペーパーレス化による事務作業の削減など、デジタル技術を活用して業務の無駄を徹底的に排除し、従業員一人ひとりの生産性を高めることが、人手不足時代を乗り切るために不可欠なのです。

消費者行動の変化への対応

スマートフォンの普及は、消費者の情報収集や購買行動を根本的に変えました。人々は、商品やサービスを購入する前に、まずオンラインで情報を検索し、SNSやレビューサイトで口コミを確認し、複数のECサイトで価格を比較することが当たり前になりました。

企業にとって、ウェブサイトやSNSといったデジタルチャネルでの顧客接点は、もはやオプションではなく、ビジネスの生命線とも言える重要なチャネルとなっています。このような環境で、デジタル化に対応できていない企業(例えば、ウェブサイトが古いままで情報が更新されていない、オンラインでの問い合わせ窓口がない、など)は、顧客の検討の土俵にすら上がることができず、ビジネスチャンスを失うことになります。

デジタル化を推進し、顧客とのデジタル接点を強化し、そこで得られたデータ(例えば、どのページがよく見られているか、どのようなキーワードで検索されているかなど)に基づいて、顧客のニーズに迅速に対応していくことが求められています。

BCP(事業継続計画)の観点

BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、地震や台風といった自然災害、あるいは感染症のパンデミック、サイバー攻撃といった予期せぬ緊急事態が発生した場合でも、企業が中核となる事業を継続し、あるいは早期に復旧できるようにするための計画です。

近年の新型コロナウイルス感染症の拡大は、デジタル化がBCPにおいていかに重要であるかを浮き彫りにしました。

  • ・リモートワーク環境の整備:クラウド型のグループウェアやWeb会議システムを導入していた企業は、比較的スムーズに在宅勤務(リモートワーク)に移行できましたが、紙の書類や社内サーバーへのアクセスが前提となっていた企業は、事業の継続に大きな支障をきたしました。
  • ・重要データのバックアップ:オフィスのサーバーにしかデータが保存されていない場合、災害でオフィスが被災すれば、全てのデータを失うリスクがあります。データをクラウドストレージなどに分散・バックアップしておくことは、BCPの基本です。

このように、場所を選ばない働き方を可能にし、重要な情報を安全に保護するという観点からも、デジタル化は企業のレジリエンス(強靭性)を高める上で不可欠な取り組みとなっています。

デジタル化が企業にもたらす具体的なメリット

デジタル化の推進は、企業にとってコストや手間がかかる側面もありますが、それを上回る多岐にわたる具体的なメリットをもたらします。これらは、企業の競争力強化や持続的な成長に直結するものです。

業務効率化によるコスト削減

デジタル化がもたらす最も直接的で分かりやすいメリットが、業務効率化によるコスト削減です。

  • ・ペーパーレス化によるコスト削減:紙の書類を電子化することで、紙代、印刷代、インク代、郵送費、そして書類を保管するためのファイルキャビネットや倉庫の賃料といった、物理的なコストを大幅に削減できます。
  • ・人件費の削減と最適化:これまで手作業で行っていたデータの入力、転記、集計、照合といった定型的な作業を、RPAやExcelマクロ、各種クラウドサービス(会計ソフト、勤怠管理ソフトなど)で自動化・効率化できます。これにより、これらの作業にかかっていた人件費や残業代を削減できるだけでなく、従業員をより付加価値の高い業務へ再配置することも可能になります。

・ミスの削減によるコスト削減:手作業によるデータ入力や転記は、ヒューマンエラー(入力ミス、計算ミス、確認漏れなど)を誘発しやすいです。デジタル化・自動化によってこれらのミスを削減することで、手戻りによる修正作業のコストや、ミスによって生じる損失(例えば、請求ミスによる未回収など)を防ぐことができます。

生産性の向上

デジタル化は、従業員一人ひとりの生産性を高める上でも大きな効果を発揮します。

  • ・情報検索時間の短縮:必要な書類や情報が紙のファイルキャビネットや、個人のPC内の異なるフォルダに散在していると、それらを探し出すまでに多くの時間を浪費してしまいます。情報をデジタル化し、クラウドストレージや文書管理システムで一元管理することで、強力な検索機能を使って、必要な情報に誰でも瞬時にアクセスできるようになり、情報検索にかかる時間を劇的に短縮できます。
  • ・場所を選ばない働き方の実現:クラウドサービスを活用することで、インターネット環境さえあれば、オフィスだけでなく、自宅や外出先からでも、必要な情報にアクセスし、業務を行うことが可能になります(リモートワーク)。これにより、通勤時間などの移動時間を有効活用できたり、育児や介護といった事情を抱える従業員も働き続けやすくなったりと、働き方の柔軟性が高まり、生産性が向上します。

・情報共有の迅速化:ビジネスチャットツールやプロジェクト管理ツールを導入することで、メールよりも迅速で、リアルタイム性の高いコミュニケーションが可能になります。関係者間での情報共有や意思決定のスピードが向上し、プロセス全体のリードタイム短縮に繋がります。

データに基づいた意思決定の促進

デジタル化の重要なメリットの一つが、データに基づいた客観的な意思決定(データ駆動型意思決定)を促進できることです。

これまで紙で管理されていたために活用が難しかった情報や、あるいはそもそも取得されていなかった業務プロセスに関するデータが、デジタル化によって収集・蓄積・可視化されるようになります。

  • ・営業日報をSFA(営業支援システム)でデジタル化することで、個々の営業担当者の活動量だけでなく、商談の進捗状況や、失注の理由といったデータが蓄積されます。
  • ・Webサイトのアクセスログを解析することで、どのページがよく見られているか、どのようなキーワードで訪問者が流入しているかといったデータが可視化されます。
  • ・勤怠管理システムを導入することで、部門ごとや個人ごとの残業時間や休暇取得状況が正確に把握できます。

これらの客観的なデータを分析することで、勘や経験だけに頼るのではなく、「どの営業プロセスにボトルネックがあるのか」「どのWebコンテンツを強化すべきか」「どの部門の業務負荷が高いのか」といった課題を、事実に基づいて特定し、より的確な改善策や経営判断を行うことが可能になります。

新たなビジネスモデル創出の可能性

デジタル化によって収集・蓄積されたデータを分析することは、既存業務の改善だけでなく、新しい顧客ニーズの発見や、既存の製品・サービスに新たな付加価値を加える機会を生み出します。これは、デジタライゼーションから、さらに高次のDXへと繋がる重要なステップです。

  • ・顧客からの問い合わせデータを分析することで、既存製品の不満点や、まだ満たされていない潜在的なニーズを発見し、新製品の開発に繋げる。
  • ・製品にIoTセンサーを取り付けて稼働データを収集し、そのデータを分析して故障予知サービスや、効率的な使い方をアドバイスするコンサルティングサービスといった、製品に付随する新たなサービス(いわゆる「コト売り」)を創出する。
  • ・匿名の購買データを分析し、その市場トレンド情報を、他の企業にレポートとして販売する。

このように、デジタル化によって得られたデータは、企業にとっての新しい「資産」となり、新たなビジネスモデル創出の源泉となる可能性を秘めているのです。

従業員の働きがい向上

非効率な業務プロセスや、煩雑な単純作業は、従業員にとって大きなストレスの原因となります。デジタル化によってこれらの非効率な作業から解放されることは、従業員のストレスを軽減し、労働環境を改善する上で大きな意味を持ちます。

そして、単純作業に費やしていた時間を、より創造的で、高度な判断が求められる業務、あるいは顧客と直接向き合う付加価値の高い業務に充てることができるようになります。これにより、従業員は自身のスキルや能力をより発揮できるようになり、仕事に対する満足度や、働きがいの向上に繋がることが期待されます。働きがいのある職場は、優秀な人材の離職を防ぎ、新たな人材を惹きつける上でも有利に働きます。

デジタル化推進における課題と注意点

デジタル化は多くのメリットをもたらしますが、その推進プロセスは必ずしも順風満帆とは限りません。導入コスト、セキュリティ、人材、そして従業員の意識といった、乗り越えるべきいくつかの現実的な課題や注意点が存在します。

導入・運用コストの発生

新しいデジタルツールやシステムを導入するには、初期費用(ソフトウェアの購入費や、導入支援コンサルティング費など)や、月額・年額の利用料(クラウドサービスの利用料など)といったコストが発生します。

特に中小企業にとっては、これらのコスト負担がデジタル化に踏み切れない大きな要因となる場合があります。導入を検討する際には、そのツール導入によって得られる具体的な効果(例えば、〇〇時間の工数削減による人件費削減、あるいは印刷・郵送費の削減など)を試算し、費用対効果(ROI)を慎重に見極める必要があります。

セキュリティリスクへの対応

業務情報をデジタル化し、クラウドサービスなどを利用してインターネット経由でアクセスできるようにすることは、利便性を高める一方で、情報漏洩やサイバー攻撃といったセキュリティリスクを増大させる側面も持ち合わせています。

重要な顧客情報や機密データが外部に流出すれば、企業の信頼は失墜し、事業継続に深刻な影響を及ぼしかねません。デジタル化を推進する際には、導入するツールやサービスが十分なセキュリティ対策(データの暗号化、アクセス制御、不正侵入検知など)を備えているかを厳しく確認するとともに、従業員に対するセキュリティ教育(不審なメールを開かない、強固なパスワードを設定するなど)を徹底し、社内のセキュリティポリシーを策定・遵守することが不可欠です。

IT人材の不足と従業員のスキル格差

デジタルツールを導入・運用し、さらに収集したデータを分析・活用するためには、専門的な知識やスキルを持ったIT人材が必要です。しかし、そのような人材は社会全体で不足しており、特に中小企業にとっては確保や育成が困難な状況です。

また、従業員間でのITリテラシー(デジタル技術を使いこなす能力)に大きな差がある場合も、デジタル化の障壁となります。一部の従業員しか新しいツールを使いこなせず、他の従業員は従来のアナログな方法を続けてしまうと、かえって業務が二重化し、非効率になってしまう可能性もあります。全従業員を対象とした継続的なデジタルスキルの教育・研修が重要になります。

既存システムとの連携問題

新しく導入するデジタルツール(例えば、SaaS型の顧客管理ツール)と、社内で長年利用してきた既存の基幹システム(例えば、オンプレミスの販売管理システム)などが、うまくデータ連携できないという問題が発生することがあります。

その結果、新しいツールに入力したデータを、再度、既存のシステムにも手入力しなければならないといった、かえって業務が煩雑化してしまうケースも見られます。ツールを選定する際には、現在利用している他のシステムとスムーズに連携(API連携など)できるかどうかを、事前に確認することが重要です。

変化への抵抗感

デジタル化は、多くの場合、これまでの業務の進め方やルールを変更することを伴います。長年慣れ親しんだアナログな業務プロセスを変えることに対して、従業員から心理的な抵抗が生まれることは少なくありません。

「新しいツールの使い方を覚えるのが面倒だ」「今のやり方で問題なく回っているのに、なぜ変える必要があるのか」「デジタル化で自分の仕事がなくなるのではないか」といった不安や反発が、変革のブレーキとなることがあります。

これを乗り越えるためには、経営層や推進担当者が、なぜデジタル化が必要なのか、それによって従業員自身にもどのようなメリットがあるのか(例えば、煩雑な作業から解放されるなど)を、丁寧に説明し、対話を重ね、現場の理解と協力を得ながら進めていく姿勢が不可欠です。

デジタル化を成功させるための推進ステップ

デジタル化を成功させるためには、思いつきでツールを導入するのではなく、目的を明確にし、現場を巻き込みながら、段階的に進めていくことが重要です。

1. デジタル化の目的と対象業務の明確化

全ての活動の起点として、まず「何のために」「どの業務を」デジタル化するのか、具体的な目的とスコープ(範囲)を定義します。経営課題や現場の課題に基づき、「顧客対応のスピードを上げたい」「請求書処理のミスをなくしたい」「営業の移動時間を削減したい」など、解決したい課題を明確にします。

2. 現状業務プロセスの可視化と課題分析

次に、対象業務の現在の流れ(プロセス)を、担当者へのヒアリングなどを通じて詳細に書き出し、「見える化」します。「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行っているのか、そして「どこに時間がかかっているか」「どこでミスが発生しやすいか」「どこに無駄な作業があるか」といった課題やボトルネックを徹底的に分析します。

3. 導入ツールの選定と費用対効果の検証

特定した課題を解決するために最適なデジタルツール(SaaSサービス、RPAツール、自社開発システムなど)を選定します。複数のツールを比較検討し、機能、コスト、使いやすさ、サポート体制などを評価します。

そして、導入にかかるコスト(初期費用、月額費用など)と、それによって得られる効果(例えば、〇〇時間の工数削減による人件費削減額、あるいはペーパーレス化によるコスト削減額など)を具体的に試算し、費用対効果(ROI)を検証します。

4. スモールスタートでの導入と効果測定

最初から全社一斉に導入するのではなく、まずは特定の部署やチーム、あるいは特定の業務プロセスに限定して、小さくツールを導入し、試行する「スモールスタート」のアプローチが有効です(PoC:概念実証とも呼ばれます)。

この試行を通じて、ツールが実際に現場で使いやすいか、想定した効果が出るか、予期せぬ問題は発生しないかなどを検証します。この段階で得られた現場からのフィードバックを基に、設定や運用方法を改善していくことで、本格導入時の失敗リスクを低減できます。

5. 従業員への説明・教育と定着支援

新しいツールや業務プロセスを導入する際には、その背景や目的、具体的な操作方法などについて、従業員への丁寧な説明会やトレーニングを実施することが不可欠です。

また、導入して終わりではなく、導入後も、現場からの質問や疑問に答えるためのサポート体制(例えば、ヘルプデスクの設置や、各部署のキーマン育成など)を整え、新しいツールやプロセスが現場に「定着」するまで継続的に支援します。

6. 全社展開と継続的な改善

スモールスタートで効果が確認され、運用ノウハウが蓄積されたら、対象範囲を他の部署や業務へと段階的に広げ、本格的に全社展開していきます。

そして、導入後も、あらかじめ設定したKPI(重要業績評価指標)に基づいて、その効果(例えば、コスト削減率や、作業時間の短縮率など)を継続的に測定します。環境の変化や、さらなる改善点が見つかれば、プロセスやツールの設定を見直し、改善していくというPDCAサイクルを回し続けることが、デジタル化の成果を最大化するために重要です。

【業務別】デジタル化の具体例

デジタル化は、企業のあらゆる業務領域において実践されており、その多くは身近なSaaS(Software as a Service)ツールの導入によって実現されています。

ペーパーレス化による書類管理の効率化

これまで紙で印刷し、ファイリングしていた契約書や請求書、稟議書、会議資料などを電子データ(PDFなど)化し、クラウドストレージ(Google Drive, Dropboxなど)や文書管理システムで管理します。これにより、印刷コスト、紙代、郵送費、そして書類を保管するためのキャビネットや倉庫のスペースコストを削減できます。また、必要な書類をキーワード検索で瞬時に見つけ出せるようになり、情報検索性が飛躍的に向上します。

コミュニケーションのデジタル化

社内・社外とのコミュニケーション手段をデジタル化することで、情報共有のスピードと質を高めます。

  • ビジネスチャットツール(Slack, Microsoft Teams, Chatworkなど)を導入し、従来のメールや電話よりも、迅速で気軽なコミュニケーションを実現します。プロジェクトごとやテーマごとにグループを作成し、リアルタイムでの情報共有やファイル共有を行います。
  • Web会議システム(Zoom, Google Meetなど)を活用し、遠隔地にいるメンバーとも、顔を見ながらの会議を可能にします。これにより、移動時間を削減し、リモートワークを促進します。

営業活動のデジタル化

営業担当者の属人的な活動管理から、データに基づいた効率的な営業プロセスへと変革します。

SFA(営業支援システム)/CRM(顧客管理システム)を導入し、顧客情報、商談の進捗状況、過去の対応履歴などを一元管理します。これにより、営業担当者間の情報共有が円滑になり、マネージャーはチーム全体の活動状況を客観的に把握できます。

オンライン商談ツールを導入し、顧客先への訪問と併用することで、移動時間を削減し、一日あたりの商談数を増やすなど、営業活動の効率を高めます。

バックオフィス業務のデジタル化

経理、人事、労務といったバックオフィス(管理部門)の定型業務をデジタル化し、大幅な効率化を図ります。

クラウド会計ソフト(freee, マネーフォワード クラウドなど)を導入し、銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込み、仕訳作業を自動化します。請求書の発行・送付もオンラインで完結できます。

経費精算システム(Concur Expense, 楽楽精算など)を導入し、従業員がスマートフォンで領収書を撮影・申請し、上司がオンラインで承認できるようにします。紙の伝票処理や手作業での集計をなくします。

勤怠管理システム(KING OF TIME, ジョブカンなど)を導入し、ICカードやスマートフォンでの打刻と、労働時間の自動集計、給与計算ソフトへの連携を実現します。

デジタル化を支援するツール・サービス

上記のような業務別のデジタル化を推進する上で、クラウドベースで提供される様々なSaaSツールが、導入しやすく、効果的な選択肢となります。

コミュニケーション・情報共有ツール

・ビジネスチャット:Slack, Microsoft Teams, Chatwork

  • ・Web会議:Zoom, Google Meet, Microsoft Teams
  • ・グループウェア:Google Workspace (Gmail, カレンダー, Drive), Microsoft 365 (Outlook, Teams, SharePoint)
  • ・クラウドストレージ:Dropbox Business, Box
  • ・プロジェクト管理:Asana, Trello, Backlog

・ナレッジ共有:Notion, Confluence

バックオフィス効率化ツール

  • ・クラウド会計:freee会計, マネーフォワード クラウド会計, 弥生会計 オンライン
  • ・経費精算:Concur Expense, 楽楽精算, マネーフォワード クラウド経費
  • ・勤怠管理:KING OF TIME, ジョブカン勤怠管理, freee人事労務
  • ・ワークフロー(申請・承認):X-point Cloud, ジョブカンワークフロー

・電子契約:クラウドサイン, GMOサイン, freeeサイン

営業・マーケティング支援ツール

  • ・SFA/CRM:Salesforce Sales Cloud, HubSpot Sales Hub, kintone, Zoho CRM
  • ・MA(マーケティングオートメーション):Marketo Engage, HubSpot Marketing Hub, Pardot, SATORI
  • ・オンライン商談:Zoom, BellFace, V-CUBE ミーティング

まとめ

本記事では、「デジタル化」の基本的な意味から、DXやデジタイゼーション、デジタライゼーションとの明確な違い、そして企業がデジタル化を推進すべき理由、具体的なメリットや導入ステップ、さらには推進における課題まで、網羅的に解説しました。

デジタル化とは、アナログな情報やプロセスをデジタル形式に変換・活用することであり、それはDXという最終的な経営変革を達成するための重要なプロセスです。デジタイゼーション(アナログ→デジタル変換)とデジタライゼーション(個別プロセスの効率化)という段階的な取り組みの総称とも言えます。

労働人口の減少や消費者行動の変化といった外部環境への対応、そしてBCPの観点からも、デジタル化の推進はもはや全ての企業にとって不可欠な取り組みです。業務効率化によるコスト削減、生産性の向上、データに基づいた意思決定の促進といった多くのメリットが期待できる一方で、コストやセキュリティ、人材育成といった課題も存在します。

デジタル化を成功させる鍵は、経営層が明確な目的意識を持ち、現場を巻き込みながら、スモールスタートで着実に進めていくことです。この記事を参考に、ぜひ自社の課題解決に向けたデジタル化の取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

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物流ロボットとは?工程別の種類・メリット・主要メーカーを解説【2025年最新】

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物流ロボットとは?工程別の種類・メリット・主要メーカーを解説【2025年最新】

物流ロボット(AGV/AMR/GTPなど)とは何か、その種類・メリット・導入ステップを徹底解説します。2024年問題や人手不足といった背景から、工程別の主要なロボットの機能、導入成功事例、そして失敗しない選び方と主要メーカーをプロが紹介します。

農業の自動化とは?メリット・デメリットと実現する技術7選、導入事例まで解説

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農業の自動化とは?メリット・デメリットと実現する技術7選、導入事例まで解説

農業の自動化について、その目的からメリット・デメリット、具体的な技術(ドローン、自動走行トラクター等)や導入事例、活用できる補助金までを分かりやすく解説します。人手不足や高齢化の課題解決に繋がります。