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業務プロセスの効率化の進め方|可視化から改善までの7ステップと実践ポイント
業務プロセスの効率化とは何か、その意味と重要性を解説。なぜ効率化が必要なのか?現状プロセスを可視化し、課題を発見、改善策を実行する具体的な7つのステップなどを詳述します。
目次
「日々の業務に追われ、残業が常態化している」「同じようなミスが繰り返し発生する」「作業が特定の人に集中し、その人がいないと仕事が進まない」。多くの職場が、このような非効率な業務プロセスに関する悩みを抱えています。
個々の従業員の努力だけでこれらの問題を解決するには限界があります。組織として、業務の進め方そのもの、すなわち「業務プロセス」に目を向け、その非効率な部分を体系的に改善していく取り組みが不可欠です。
この記事では、そんな「業務プロセスの効率化」について、その基本的な考え方から、なぜ今それが重要なのか、そして具体的な進め方である7つのステップ、さらには役立つフレームワークやツールまで、網羅的に、そして分かりやすく解説していきます。
業務プロセスの効率化とは?
業務プロセスの効率化とは、特定の業務目標を達成するために行われる一連の活動の流れ(プロセス)を詳細に分析し、そこに潜む「ムリ(過剰な負荷)」「ムダ(不要な作業)」「ムラ(ばらつき)」といった非効率な要素を特定し、それらを排除・改善することです。
その最終的な目的は、より少ない資源(時間、コスト、人員など)で、より大きな成果(生産量の増加、品質の向上、リードタイムの短縮など)を生み出せるように、業務の進め方を最適化することにあります。単に作業時間を短縮するだけでなく、生産性の向上、コスト削減、業務品質の向上、そして従業員の負担軽減などを総合的に目指す、継続的な改善活動です。
効率化が必要な業務プロセスの特徴
あなたの職場にも、非効率な業務プロセスが潜んでいるかもしれません。一般的に、効率化が必要な業務プロセスには、以下のような共通の特徴が見られます。
・属人化している:特定の担当者しか業務の手順やノウハウを知らず、その人が不在だと業務が滞ってしまう。マニュアル化もされていない。
・ボトルネックが存在する:プロセス全体の中で、特定の工程や担当者に作業が集中し、そこが全体の流れを滞らせる「隘路(あいろ)」となっている。
・手作業が多い:システムで自動化できるはずのデータの入力や転記、書類の作成などを、依然として手作業で行っている部分が多い。
・待ち時間が多い:上司の承認待ち、関連部署からの回答待ち、システム処理の待ち時間など、作業と作業の間で多くの「手待ち時間」が発生している。
・確認・修正作業が多い:入力ミスや伝達ミスなどが原因で、後工程での確認作業や、手戻りによる修正作業が頻繁に発生している。
・情報共有が非効率:必要な情報がどこにあるか分からなかったり、同じような問い合わせが繰り返し発生したり、会議が多くて時間が取られたりする。
これらの特徴に心当たりがある場合は、その業務プロセスに改善の余地が大きいと言えるでしょう。
「BPR(業務改革)」との関連性
業務プロセスの改善に関連する言葉として、「BPR(Business Process Re-engineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」があります。BPRと業務プロセス効率化は、どちらも業務の改善を目指す点で共通していますが、その変革の度合いやアプローチにニュアンスの違いがあります。
BPRは、既存の業務プロセスや組織構造を根本から疑い、ゼロベースで再設計する、より抜本的で大規模な改革を指す場合が多いです。例えば、これまで部署ごとに行っていた業務を、プロセス全体を最適化するために集約・再編したり、最新のデジタル技術導入を前提として、全く新しい業務フローを構築したりするような活動です。比較的短期間で大きな変革を目指す、トップダウン型のアプローチが取られることが多いです。
一方、業務プロセスの効率化は、多くの場合、既存の業務プロセスを前提とした上で、その中での「ムリ・ムダ・ムラ」を地道に排除していく、継続的な改善活動というニュアンスで使われます。BPRほどの抜本的な変革ではなく、現場主導でのボトムアップ型の改善活動も含まれる、より広範な概念と捉えることができます。
ただし、両者の境界は必ずしも明確ではなく、業務プロセス効率化の取り組みが、結果的にBPRと呼べるような大きな変革に繋がることもあります。重要なのは、言葉の定義にこだわることではなく、自社の課題や目指す変革のレベルに応じて、適切なアプローチを選択することです。
なぜ今、業務プロセス効率化が重要なのか?
業務プロセスの効率化は、単なるコスト削減策ではありません。変化の激しい現代の市場環境において、企業が競争力を維持し、持続的に成長していくための、不可欠な経営課題として、その重要性がますます高まっています。
労働人口減少と人手不足への対応
日本全体で少子高齢化が急速に進み、生産年齢人口(15歳から64歳)が減少し続けていることは、あらゆる企業にとって深刻な経営課題です。特に中小企業においては、人材の確保は年々困難になっており、慢性的な人手不足に悩むケースが後を絶ちません。
このような状況下で、企業がこれまでと同じ、あるいはそれ以上の事業成果を上げていくためには、少ない人数でも高い生産性を維持・向上させることが絶対条件となります。そのためには、既存の業務プロセスの中に潜むあらゆる「ムダ」を徹底的に排除し、従業員一人ひとりが、より付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることが不可欠です。業務プロセス効率化は、人手不足時代を乗り切るための重要な戦略なのです。
市場競争の激化とコスト削減の必要性
グローバル化の進展や、デジタル技術による異業種からの新規参入などにより、多くの業界で市場競争はますます激化しています。製品やサービスのコモディティ化(同質化)が進む中で、厳しい価格競争に晒されている企業も少なくありません。
このような厳しい競争環境の中で、企業が利益を確保し、持続的に成長していくためには、売上を伸ばす努力と同時に、コストを削減する努力も不可欠です。業務プロセスを効率化し、作業時間の短縮による人件費の削減、手戻りや不良品の削減による損失の低減、あるいはペーパーレス化による消耗品費の削減といった形で、日々のオペレーションコストを地道に削減していくことが、企業の収益性を改善し、競争力を高める上で非常に重要となります。
働き方改革と従業員満足度の向上
長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方の実現を目指す「働き方改革」は、現代の企業にとって重要な社会的責務であると同時に、優秀な人材を確保・維持するための重要な経営戦略でもあります。
非効率な業務プロセスは、しばしば長時間労働の温床となります。例えば、承認プロセスに時間がかかり待ち時間が多い、手作業でのデータ入力に多くの時間を費やす、あるいは度重なる手戻りで残業が発生するといった状況です。
これらの非効率な業務プロセスを改善し、従業員の無駄な作業負担を軽減することは、労働時間の短縮に直接的に繋がります。さらに、ストレスの原因となる非効率な業務から解放されることで、従業員の仕事に対する満足度や、働きがいの向上も期待できます。働きやすい職場環境は、優秀な人材の獲得と定着にも繋がり、企業の長期的な成長を下支えします。
DX推進の土台作り
多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に取り組んでいます。しかし、DXを成功させるためには、単に最新のデジタルツール(例えば、AIやRPA、SaaSなど)を導入するだけでは不十分です。
むしろ、ツールを導入する「前」に、まず既存の業務プロセスを整理し、不要な作業を廃止したり、煩雑な手順を簡素化したりといった、業務プロセス自体の見直しと効率化を行っておくことが、DXを成功させるための重要な前提条件となります。
なぜなら、非効率な業務プロセスをそのままデジタル化しても、その非効率性がシステム上に再現されるだけであり、期待した効果が得られないからです。まず業務プロセスを磨き上げ、その上で最適なデジタルツールを導入するという順番が、DXを成功に導くための王道と言えます。業務プロセス効率化は、DX推進の土台作りとしても極めて重要なのです。
業務プロセス効率化を実現する7つのステップ
業務プロセスの効率化は、思いつきや場当たり的な対応で進めても、なかなか継続的な成果には繋がりません。体系的なステップに沿って、現状を客観的に分析し、課題を特定し、改善策を実行し、その効果を測定するというサイクルを回していくことが、着実な成果を生み出すための鍵となります。ここでは、一般的な業務プロセス効率化の進め方を7つのステップに分けて解説します。
Step 1:対象プロセスの選定と目標設定
まず最初のステップは、組織内にある数多くの業務プロセスの中から、効率化に取り組む対象を具体的に特定することです。全てのプロセスに同時に着手するのは現実的ではないため、ボトルネックとなっている可能性が高いプロセスや、改善効果が大きいと見込まれるプロセス、あるいは従業員からの不満の声が多いプロセスなどを、優先順位をつけて選定します。
対象プロセスを選定したら、次に「そのプロセスの何を、どのレベルまで改善したいのか」という、具体的で測定可能な目標を設定します。例えば、「顧客からの問い合わせに対する初回の回答時間を、現状の平均24時間から8時間以内に短縮する」「請求書処理にかかる時間を、現状の1件あたり15分から5分に短縮する」「製造ラインにおける不良品発生率を、現状の3%から1%未満に低減する」といった、定量的(数値で測れる)な目標を設定することが重要です。この目標が、後の効果測定の基準となります。
Step 2:現状プロセスの可視化
対象プロセスと目標が定まったら、次はそのプロセスの現状を客観的かつ詳細に把握するための「可視化」を行います。「誰が(担当者)」「いつ(タイミング)」「どこで(場所・システム)」「何を(作業内容)」「どのように(手順・ツール)」行っているのか、という情報を、実際に業務を行っている担当者へのヒアリングや、業務観察、あるいはシステムログの分析などを通じて、徹底的に洗い出します。
洗い出した情報は、単なる文章ではなく、図や表といった視覚的な形式で整理することが、関係者間での共通認識を醸成する上で非常に有効です。
・フローチャート:業務の流れを記号と矢印で表現し、プロセス全体の流れや分岐条件を分かりやすく示します。
・業務記述書:各作業ステップごとの担当者、作業内容、所要時間、使用ツールなどを詳細に記述します。
・プロセスマッピング:部署間の連携や情報の流れも含めて、より広範な視点でプロセスを図示します。
この可視化のプロセスを通じて、これまで暗黙知となっていた業務の手順や、認識されていなかった非効率な部分が明らかになることが多くあります。
Step 3:課題・問題点の分析
現状プロセスが客観的に可視化されたら、次はその可視化されたプロセスを分析し、「どこにボトルネック(滞留箇所)があるのか」「なぜ無駄な作業が発生しているのか」「どのようなリスクが潜んでいるのか」といった、具体的な課題や問題点を特定していきます。
この分析段階で有効なのが、後述する「ECRS(改善の4原則)」や「なぜなぜ分析」といったフレームワークです。
ECRSの観点(排除できないか?結合できないか?順序変更できないか?簡素化できないか?)で各作業ステップを見直すことで、改善のヒントを得やすくなります。
なぜなぜ分析を用いて、「なぜこの作業に時間がかかるのか?」「なぜミスが発生するのか?」といった問いを繰り返し掘り下げることで、問題の表面的な事象だけでなく、その根本的な原因を突き止めることができます。
ここでは、思い込みや主観を排除し、データに基づいて客観的に課題を特定する姿勢が重要です。
Step 4:改善策の立案
特定された課題や根本原因を解決するための具体的な改善策を検討し、理想とする新しい業務プロセス(To-Beモデル)を設計します。
改善策を検討する際には、Step 3で用いたECRSの原則が有効です。
・Eliminate(排除):そもそも不要な作業やプロセス自体をなくせないか?
・Combine(結合):複数の作業や工程を一つにまとめられないか?
・Rearrange(交換):作業の順序や担当者を入れ替えることで効率化できないか?
・Simplify(簡素化):作業手順をもっとシンプルに、分かりやすくできないか?
これらの観点から、既存のやり方にとらわれずに、ゼロベースで新しいプロセスをデザインすることが重要です。また、この段階で、RPAやワークフローシステムといったデジタルツールの活用も併せて検討します。複数の改善策候補を比較検討し、最も効果が高く、実現可能性の高い案を選択します。
Step 5:改善策の実行と効果測定
立案した改善策を、計画に基づいて実行に移します。新しいツールを導入したり、業務手順を変更したり、担当者の役割分担を見直したりします。この際、関係する従業員に対して、変更の目的や具体的な手順について事前に十分な説明を行い、トレーニングを実施することが、スムーズな移行のためには不可欠です。
そして、改善策を実行した後には、必ずその効果を測定し、評価します。Step 1で設定した目標(KPI)に対して、どの程度の改善が見られたのかを定量的に測定します。「リードタイムが〇〇%短縮された」「作業工数が〇〇時間削減された」「エラー発生率が〇〇%低下した」といった形で、具体的な数値で効果を確認することが重要です。期待した効果が出ていない場合は、その原因を分析し、さらなる改善策を検討します。
Step 6:新プロセスの標準化と定着
改善効果が確認された新しい業務プロセスを、組織の正式な標準プロセスとして定着させます。そのために、新しい手順を明確に記述した業務マニュアルを作成したり、関連する社内規定を改訂したりします。
また、新しいプロセスが形骸化せず、確実に運用され続けるためには、関係者への継続的な教育や、定期的な運用状況のチェックといった活動も必要です。新しいプロセスが「当たり前」のやり方として組織に根付くよう、地道な働きかけを続けます。
Step 7:継続的なモニタリングとさらなる改善
業務プロセスの効率化は、一度改善したら終わり、というものではありません。ビジネス環境や技術は常に変化するため、一度最適化されたプロセスも、時間とともに陳腐化し、再び非効率な部分が生まれてくる可能性があります。
そのため、改善後のプロセスについても、設定したKPIなどを通じてその運用状況を定期的にモニタリング(監視)し、問題が発生していないか、あるいはさらに改善できる点はないかを常に探し続けることが重要です。この「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」というPDCAサイクルを回し続けることで、業務プロセスを継続的に進化させていくことが、持続的な生産性向上に繋がります。
プロセス効率化に役立つフレームワークと考え方
業務プロセスの効率化を効果的に進める上で、先人たちの知恵である様々なフレームワークや考え方を活用すると、課題の発見や改善策の立案がよりスムーズになります。
ECRS(改善の4原則)
ECRS(イクルス)は、業務改善策を検討する際の基本的な視点を示す、非常にシンプルで強力なフレームワークです。「改善の4原則」とも呼ばれます。
・E: Eliminate(排除):その作業やプロセスは、そもそも本当に必要か?なくせないか?
・C: Combine(結合):複数の作業や担当者を一つにまとめられないか?
・R: Rearrange(交換):作業の順序や場所、担当者を入れ替えることで、より効率的にならないか?
・S: Simplify(簡素化):作業手順をもっと簡単に、分かりやすくできないか?
「E→C→R→S」の順番で検討することが重要です。まず「なくせないか?」を考え、それが無理なら「まとめられないか?」、それも無理なら「入れ替えられないか?」、そして最後に「もっと簡単にできないか?」という順番で考えることで、より本質的で効果の高い改善策にたどり着きやすくなります。
なぜなぜ分析
なぜなぜ分析は、発生している問題に対して「なぜ?」という問いを繰り返し(一般的には5回程度)掘り下げていくことで、その問題の表面的な原因だけでなく、根本的な原因(真因)を特定するための思考法です。トヨタ生産方式の中で生まれた手法として知られています。
例えば、「資料作成に時間がかかる」という問題に対して、
・なぜ?→ 必要なデータを探すのに時間がかかるから。
・なぜ?→ データが色々な場所に散らばっているから。
・なぜ?→ 部署ごとに異なるシステムを使っているから。
・なぜ?→ 全社的なデータ管理のルールがないから。
・なぜ?→ 経営層がデータ活用の重要性を認識していないから。
といった具合に掘り下げることで、表面的な問題(資料作成スキル)ではなく、より根本的な課題(経営層の認識不足、データ基盤の未整備)にたどり着くことができます。根本原因に対処することで、問題の再発を防ぐことができます。
BPM(ビジネスプロセスマネジメント)
BPM(Business Process Management)は、特定の業務プロセスを一度改善して終わりにするのではなく、組織として業務プロセスを継続的に改善し、最適化していくための管理手法(マネジメントサイクル)の考え方です。
BPMでは、まず業務プロセスを可視化し(モデリング)、そのプロセスを実行し(実行)、実行結果を測定・分析し(モニタリング)、分析結果に基づいてプロセスを改善し(改善)、そして改善されたプロセスを再び実行する、というPDCAサイクルを継続的に回していくことを重視します。BPMツールなどを活用し、このサイクルを組織的に運用することで、業務プロセスを常に最適な状態に保ち続けることを目指します。
リーン思考(Lean Thinking)
リーン思考は、トヨタ生産方式をベースとした経営哲学・マネジメント手法であり、徹底的に「ムダ」を排除し、顧客にとって本当に価値のある活動(バリュー)に集中することを目指す考え方です。「リーン(Lean)」とは「贅肉のない、引き締まった」といった意味です。
リーン思考では、「7つのムダ」(作りすぎのムダ、手待ちのムダ、運搬のムダ、加工そのもののムダ、在庫のムダ、動作のムダ、不良を作るムダ)を定義し、これらのムダを業務プロセスから徹底的に排除することを目指します。また、完璧な計画を立てるよりも、小さな改善を迅速に繰り返し、継続的にプロセスを進化させていくことを重視します。この考え方は、ソフトウェア開発におけるアジャイル開発などにも大きな影響を与えています。
プロセス効率化を支援するツール
手作業での業務プロセスの可視化や分析、あるいは改善後のプロセスの管理には限界があります。適切なデジタルツールを活用することで、効率化の取り組み自体を、より効率的かつ効果的に進めることができます。
プロセスマイニングツール
プロセスマイニングツールは、企業が利用している様々な業務システム(ERP, CRM, SFAなど)のイベントログデータ(「いつ」「誰が」「どの処理を」行ったかという記録)を自動で収集・分析し、実際の業務プロセスフローを客観的に可視化してくれるツールです。
人間へのヒアリングだけでは見えにくい、実際の業務の流れや、例外的な処理パターン、ボトルネックとなっている箇所、あるいは非効率な手戻りなどを、データに基づいて正確に把握することができます。これにより、勘や経験に頼らない、客観的な根拠に基づいたプロセス改善の検討が可能になります。
BPMツール(ワークフローシステム)
BPMツール、あるいはワークフローシステムと呼ばれるツールは、申請・承認といった定型的な業務プロセスを電子化し、その流れをシステム上で定義・管理・自動化するためのツールです。
例えば、経費精算の申請をシステム上で行うと、あらかじめ設定された承認ルートに従って、自動的に上司や経理担当者に承認依頼が回り、進捗状況もリアルタイムで確認できます。紙の書類を回覧したり、承認がどこで止まっているかを確認したりする手間がなくなり、プロセス全体のリードタイム短縮と透明性の向上に繋がります。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
RPAは、人間がパソコン上で行う、ルールが決まっている定型的な繰り返し作業(例えば、Excelから基幹システムへのデータ入力、Webサイトからの情報収集・転記、定型メールの作成・送信など)を、ソフトウェアロボットが代行して自動化するツールです。
プロセスマイニングなどで特定された、単純ながらも時間のかかる手作業をRPAで自動化することで、従業員をその作業から解放し、より付加価値の高い業務に集中させることができます。比較的導入が容易で、短期間で効果が出やすいことから、多くの企業で活用が進んでいます。
コミュニケーションツール
業務プロセスにおける非効率は、しばしば情報共有の遅延や、コミュニケーション不足によって引き起こされます。ビジネスチャットツール(Slack, Microsoft Teamsなど)やプロジェクト管理ツール(Asana, Trelloなど)を活用し、チーム内や関係部署間での情報共有のスピードと質を高めることは、プロセス全体のリードタイム短縮に大きく貢献します。
例えば、メールのように形式ばったやり取りではなく、チャットで気軽に質問や相談ができたり、プロジェクトのタスクの進捗状況がツール上でリアルタイムに共有されたりすることで、認識のズレや待ち時間を削減できます。
業務プロセス効率化がもたらす効果
業務プロセスの効率化は、単にコストを削減するだけでなく、企業の競争力強化や従業員の働きがい向上にも繋がる、多岐にわたる重要な効果をもたらします。
コスト削減と生産性向上
業務プロセスで分かりやすい効果が、コストの削減と生産性の向上です。プロセスから無駄な作業時間や手待ち時間が削減されることで、人件費や残業代といったコストが削減されます。また、手戻りや不良品の発生が減少すれば、それに伴う損失や再作業コストも削減されます。結果として、従業員一人ひとりが、より短い時間で、より多くの、あるいはより質の高い成果を生み出せるようになり、組織全体の生産性が向上します。
リードタイムの短縮と顧客満足度向上
業務プロセス全体の所要時間、すなわちリードタイム(例えば、受注から納品までの時間や、問い合わせから回答までの時間など)が短縮されることも、大きな効果の一つです。リードタイムが短縮されれば、顧客に対してより迅速に製品やサービスを提供できるようになり、顧客満足度の向上に繋がります。これは、市場における競争優位性を確立する上で非常に重要です。
業務品質の向上とミスの削減
業務プロセスを可視化し、標準化する過程で、曖昧だった手順や判断基準が明確化されます。また、RPAなどによる自動化が進むことで、人間が行う作業に比べて、ヒューマンエラー(入力ミス、計算ミス、確認漏れなど)が発生するリスクが大幅に減少します。これにより、業務の品質が安定し、向上する効果が期待できます。品質の安定は、顧客からの信頼獲得にも繋がります。
従業員の負担軽減とモチベーション向上
非効率な業務プロセスは、しばしば従業員にとって大きなストレスの原因となります。無駄な作業や、度重なる手戻り、あるいは長時間労働から解放されることで、従業員の身体的・精神的な負担が軽減されます。
そして、単純作業や繰り返し作業に費やしていた時間を、自身のスキルアップや、より創造的で付加価値の高い業務、あるいは顧客と直接向き合う業務などに振り向けることができるようになります。これにより、仕事に対するやりがいや達成感が高まり、従業員のモチベーション向上に繋がることが期待されます。
プロセス効率化を推進する上での注意点
業務プロセスの効率化は多くのメリットをもたらしますが、その進め方によっては、意図しない副作用や反発を招く可能性もあります。成功のためには、いくつかの注意点を理解しておくことが重要です。
現場の意見を無視したトップダウンでの押し付け
効率化の対象となる業務を実際に日々行っているのは、現場の従業員です。彼らの意見や知見を無視して、経営層やコンサルタントだけで理想的なプロセスを設計し、それをトップダウンで一方的に現場に押し付けようとすると、多くの場合、強い反発に遭います。
現場の従業員は、既存のプロセスの中に潜む細かな問題点や、新しいプロセスを導入した場合に起こりうる現実的な課題を最もよく理解しています。効率化のプロセスには、必ず現場の従業員を巻き込み、彼らの意見を尊重し、共に改善策を作り上げていくという姿勢が不可欠です。
短期的な成果を求めすぎない
業務プロセスの改善効果が、目に見える形で現れるまでには、ある程度の時間がかかる場合があります。新しいツールや手順に慣れるまでの期間や、改善効果が組織全体に波及するまでのタイムラグがあるためです。
経営層や推進担当者が、焦って短期的な成果(例えば、数週間や数ヶ月でのコスト削減効果など)を求めすぎると、現場に過度なプレッシャーを与えたり、あるいは本質的でない表面的な改善でお茶を濁したりする結果になりかねません。業務プロセスの効率化は、長期的な視点を持ち、継続的に取り組むべき活動であるという認識を持つことが重要です。
効率化による「人間らしさ」の喪失への配慮
効率を追求するあまり、過度に業務を細分化したり、自動化を進めたりすることで、従業員同士のコミュニケーションが希薄になったり、仕事の全体像が見えにくくなったり、あるいは自身の仕事に対する裁量や手応えが失われたりしないよう、配慮が必要です。
効率化は重要ですが、それが従業員のモチベーションや、チームとしての一体感、あるいは創造性を損なってしまっては本末転倒です。効率性と、従業員の働きがいや人間らしいコミュニケーションとの間で、適切なバランス感覚を持つことが、持続的な組織運営のためには大切です。
【事例紹介】業務プロセス効率化の成功例
様々な企業が、自社の事業特性や課題に合わせて、業務プロセスの効率化を実践し、具体的な成果を上げています。
【製造業の事例】生産ラインのボトルネック解消
ある製造工場では、製品Aの生産ライン全体の生産能力が、特定の組み立て工程の処理能力によって制限されている(ボトルネックになっている)ことが、プロセス分析によって明らかになりました。そこで、そのボトルネック工程に対して、作業手順の見直し(例えば、治具の改善や、作業の分割)、複数人での並行作業、あるいは一部作業の自動化といった改善策を実施しました。
その結果、ボトルネック工程の処理能力が向上し、生産ライン全体の生産能力(スループット)を20%向上させることに成功しました。
【サービス業の事例】申請業務のペーパーレス化と自動化
あるサービス企業では、従業員からの各種申請(経費精算、休暇申請など)や、その承認プロセスが、依然として紙の書類と押印によって行われており、多くの時間と手間がかかっていました。そこで、ワークフローシステムを導入し、全ての申請・承認プロセスを電子化しました。さらに、申請内容に基づいて関連システムへデータを自動入力する作業などにRPAを導入しました。
これにより、申請から承認までのリードタイムを従来の平均3日から半日に大幅短縮し、ペーパーレス化によるコスト削減と、従業員の利便性向上を実現しました。
まとめ
本記事では、業務プロセス効率化について、その基本的な考え方から重要性、具体的な7つの推進ステップ、そして役立つフレームワークやツールまで、網羅的に解説しました。
業務プロセス効率化とは、業務の流れに潜む「ムリ・ムダ・ムラ」を排除し、より少ない資源でより大きな成果を生み出すための継続的な改善活動です。労働人口の減少や市場競争の激化といった外部環境の変化に対応し、企業が持続的に成長していくためには、その推進が不可欠となっています。
成功の鍵は、場当たり的な改善ではなく、体系的なステップ(対象選定→可視化→分析→改善策立案→実行→標準化→継続改善)に沿って、現場を巻き込みながら進めることです。ECRSやなぜなぜ分析といったフレームワーク、あるいはプロセスマイニングやRPAといったツールも有効に活用できます。
業務プロセスの効率化は、コスト削減や生産性向上だけでなく、顧客満足度の向上や従業員の働きがい向上にも繋がる、経営全体にポジティブな影響を与える取り組みです。この記事を参考に、ぜひ自社の業務プロセスを見直し、改善への取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
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