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DX推進を成功させる手順|失敗しないための組織作りと7つのステップ

DX推進とは何か、その正しい意味とIT化との違いを解説します。失敗する典型的な4つの理由と、成功に導くための具体的な7つのステップを紹介。組織作りや人材育成、国の支援制度、先進企業の事例まで網羅しています。

目次

  1. DX推進とは?
  2. なぜ今、多くの企業で「DX化」が求められているのか?
  3. DX化が企業にもたらす具体的なメリット
  4. DX化が失敗する典型的なパターンと課題
  5. DX化を推進するための具体的な7ステップ
  6. DX推進における組織と人材のあり方
  7. DX推進を加速させる国の支援制度
  8. DX推進の成功事例から学ぶ
  9. まとめ

「DX推進」という言葉が、企業の経営戦略や中期経営計画において、欠かせないキーワードとなっています。多くの企業がその重要性を認識し、専門部署を立ち上げたり、外部コンサルタントを起用したりと、様々な形で取り組みを進めていることでしょう。

しかし一方で、「何から手をつければ良いのかわからない」「思ったように成果が出ない」「現場の協力が得られない」といった声も多く聞かれます。DX推進は、決して簡単な道のりではありません。

この記事では、DX推進を成功させるために不可欠な知識と考え方を、網羅的に解説します。DX推進の正しい意味の理解から失敗を避けるためのポイント、そして具体的な7つの推進ステップ、さらには組織や人材のあり方まで、深く掘り下げていきます。

DX推進とは?

DX推進とは、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を達成するために、全社的に取り組む一連の活動を指します。これは、単に新しいデジタル技術を導入することではありません。その技術を活用して、既存のビジネスモデルや業務プロセス、組織の構造、さらには企業文化や従業員の働き方までを根本から変革し、新たな競争優位性を確立することを目的とした活動です。

「DX化」の正しい意味

「DX」という言葉自体は、デジタルトランスフォーメーションという概念や、それによって達成された変革後の状態を指す傾向があります。それに対し、「DX推進」またはしばしば使われる「DX化」という言葉は、その変革の状態に至るための過程や行動に重点を置いた言葉として用いられます。「DX推進を加速する」「DX化に取り組む」といったように、変革を進めていくという動的な意味合いを含んでいます。

DX推進の最終的なゴールは、特定のITツールを導入したり、特定の業務プロセスをデジタル化したりすることではありません。デジタル技術の活用が当たり前となり、市場や顧客の変化に迅速かつ柔軟に対応しながら、継続的に新しい価値を創造し続けることができる企業体質へと変革することにあります。一時的なプロジェクトではなく、永続的な企業変革の取り組みなのです。

経済産業省が示すDX推進の指針

日本政府も企業のDX推進を重要課題と位置づけ、経済産業省を中心に様々な指針や支援策を打ち出しています。代表的なものとして「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」があります。

このガイドラインでは、DX推進を成功させるためには、経営トップ自らが強いリーダーシップを発揮し、DXによって何を実現したいのかという明確なビジョンを策定し、それを組織全体で共有することが不可欠であると強調されています。また、DX推進のための体制整備や、それを担う人材の育成・確保の重要性についても言及されています。これらの指針は、企業がDX推進に取り組む上での基本的な考え方を示しています。

DX化とIT化の決定的な違い

DX推進を正しく理解する上で、最も重要なのが「IT化」との違いを明確にすることです。しばしば混同されがちですが、この二つは目指す目的とゴールが根本的に異なります。

IT化の主な目的は、既存のアナログな業務プロセスを、デジタルツールを用いて効率化したり、自動化したりすることにあります。例えば、紙ベースの申請・承認プロセスをワークフローシステムに置き換える、手作業で行っていたデータ入力をRPAで自動化するといった活動がIT化です。これは、あくまで既存業務の改善であり、デジタル技術を手段として捉える考え方です。主にコスト削減や生産性向上を目指す「守りの投資」と位置づけられます。

一方、DX化の目的は、デジタル技術の活用を前提として、ビジネスモデルそのものや、顧客に提供する価値、さらには企業の競争力の源泉までも根本的に変革することにあります。例えば、製品にセンサーを搭載して稼働データを収集し、そのデータを活用して新たな保守サービスやコンサルティングを提供するビジネスモデルに転換する、といった活動がDX化です。これは、デジタルを企業の成長エンジン、すなわち目的達成のための重要な要素として捉える考え方であり、新たな収益源の創出や市場における競争優位性の確立を目指す「攻めの投資」と言えます。

IT化は、DX化を実現するための重要な構成要素であり、基盤となるものです。しかし、IT化を進めただけではDX化が達成されるわけではありません。DX化は、IT化によって得られたデータや効率化されたプロセスを土台として、さらにその先のビジネス変革を目指す、より広範で戦略的な概念なのです。

デジタイゼーション、デジタライゼーションとの関係

DX化のプロセスは、経済産業省のDXレポートなどで示されているように、しばしば以下の3つの段階で整理されます。この段階的な理解は、自社の取り組みが現在どのレベルにあるのかを客観的に把握する上で役立ちます。

・デジタイゼーション(Digitization)

これは、アナログで管理されていた物理的な情報を、デジタル形式に変換する段階です。いわばアナログからデジタルへの置き換えです。例えば、紙の契約書をスキャンしてPDFファイルで保存する、会議の音声を録音して音声データにする、といった活動が該当します。これにより、情報の保管、検索、共有が容易になります。これはDX化に向けた最も基礎的な工程であり、多くの企業が既に取り組んでいる領域です。

・デジタライゼーション(Digitalization)

これは、デジタイゼーションによってデジタル化された情報を活用し、特定の業務プロセス全体をデジタル技術で効率化・自動化する段階です。個別の情報をデジタル化するだけでなく、一連の業務の流れそのものをデジタル上で完結させ、最適化します。例えば、オンラインでの顧客からの注文受付から、在庫管理システム、配送システムまでを連携させ、受注から出荷までのプロセスを自動化することなどが該当します。多くの企業がIT化や業務改善として取り組んでいるのが、この段階までの活動です。

・デジタルトランスフォーメーション(DX)

そして最終段階が、デジタイゼーションとデジタライゼーションによって効率化されたプロセスや、そこで得られたデータを活用し、ビジネスモデル、製品・サービス、組織、企業文化までも根本的に変革する段階です。単なる既存業務の改善に留まらず、デジタルを前提とした新しい顧客価値の創出や、これまでにない競争優位性の確立を目指します。例えば、自動車メーカーが、単に車を売るだけでなく、コネクテッドカーから得られるデータを活用して、保険やシェアリングといった新たなモビリティサービスを提供するビジネスへと変貌を遂げる、といったことがDXにあたります。

このように、DX化はデジタイゼーションとデジタライゼーションという基盤の上に成り立つ、より高度で包括的な企業変革の取り組みとして位置づけられます。

なぜ今、多くの企業で「DX化」が求められているのか?

DX化は、単なるIT業界の流行語や、一部の先進企業だけのものではありません。変化の激しい現代の市場環境において、あらゆる業界の企業が、その存続と持続的な成長のために取り組むべき、必須の経営戦略として位置づけられています。

その背景には、企業を取り巻く外部環境の劇的な変化と、多くの企業が内部に抱える構造的な問題の両側面が存在します。

変化する市場と消費者ニーズへの対応

最も大きな推進力となっているのが、顧客の購買行動や価値観が、デジタル技術の浸透によって根本的に変化したことです。スマートフォンの普及は、消費者がいつでもどこでも情報を収集し、商品を比較検討し、オンラインで購入することを日常的な行動に変えました。SNSなどを通じて個人の意見が大きな影響力を持つようになり、企業からの一方的な情報発信だけでは顧客の心をつかむことが難しくなっています。

さらに、顧客は単にモノやサービスを手に入れるだけでなく、購入前から購入後までの一連の体験全体を重視するようになっています。画一的な製品やサービスではなく、自身の嗜好や状況に合わせた、よりパーソナライズされた情報や提案を期待しています。

このようなデジタル時代の顧客ニーズに迅速かつ的確に対応するためには、企業側も顧客とのあらゆる接点からデータを収集・分析し、それに基づいて最適な商品や情報を、最適なタイミングと最適なチャネルで提供していく必要があります。従来のマスマーケティングや対面販売を中心としたビジネスモデルだけでは、もはや競争力を維持することが困難になっており、DX化によるビジネスモデルの転換が不可欠となっているのです。

労働人口の減少と生産性向上の必要性

日本においては、少子高齢化が世界でも類を見ないスピードで進行しており、生産年齢人口(15歳から64歳)の減少が深刻な経営課題となっています。多くの産業で人手不足が慢性化しており、限られた人材でこれまで以上の成果を上げていくためには、抜本的な生産性の向上が不可欠です。

AIやRPAといったデジタル技術を活用して、これまで人手に頼ってきた定型的な事務作業や、繰り返し行われる単純作業を自動化・効率化することが急務となっています。これにより、従業員はより付加価値の高い、人間ならではの創造性や判断力が求められる業務に集中できるようになります。DX化による業務プロセスの見直しと自動化は、労働力不足という社会全体の課題に対する有効な解決策でもあるのです。

レガシーシステムがもたらす「2025年の崖」問題

多くの日本企業、特に長年にわたり事業を継続してきた歴史ある企業が抱える深刻な問題として、経済産業省が2018年のレポートで警鐘を鳴らした「2025年の崖」があります。これは、過去の技術で構築され、長年にわたって改修を繰り返してきた老朽化した基幹システムが、現在のビジネス環境に対応できなくなっている状況を指します。

これらのレガシーシステムは、多くの場合、特定のベンダーに依存した独自仕様で構築されていたり、ドキュメントが整備されておらず内部構造がブラックボックス化していたりしています。そのため、維持管理に多大なコストがかかるだけでなく、新しいデジタル技術との連携や、ビジネスモデルの変更に柔軟に対応することが極めて困難になっています。

このレガシーシステムを刷新できなければ、2025年以降、保守運用コストの増大、セキュリティリスクの増大、そしてDX化の遅れによる国際競争力の低下などにより、日本全体で最大年間12兆円もの経済的損失が生じる可能性があると指摘されています。DX化を本格的に推進するためには、まずこの足かせとなっているレガシーシステムから脱却し、データ連携が容易で柔軟性の高い、クラウドベースなどの新しいIT基盤へと移行することが、多くの企業にとって避けては通れない課題となっています。

DX化が企業にもたらす具体的なメリット

DX化への取り組みは、企業に短期的なコスト増や組織変革の痛みを伴うこともありますが、それを乗り越えて成功させることで、単なる業務効率の改善に留まらない、持続的な成長と競争力強化に繋がる多くの重要なメリットを享受できます。

新たなビジネスモデルやサービスの創出

DX化によって得られる最大のメリットの一つが、デジタル技術とデータを活用することで、これまで実現不可能だった新しいビジネスモデルやサービスを生み出す機会が得られることです。

例えば、製造業であれば、製品にセンサーを搭載して稼働データを収集し、そのデータを分析して故障予知サービスや運用効率化のコンサルティングを提供する、いわゆるモノ売りからコト売りへのビジネスモデル転換が可能です。また、小売業であれば、顧客の購買データを分析して、個々の顧客に最適化されたサブスクリプションサービスを提供する、といったことも考えられます。

デジタル技術は、企業の新たな収益源を創出し、事業ポートフォリオを多様化させるための強力な推進力となり得るのです。

業務プロセスの効率化と生産性向上

請求書の発行・受領、経費精算、受発注処理といった定型的なバックオフィス業務をRPAやAI-OCR(AI技術を活用した光学文字認識)などで自動化したり、これまで部門ごとにサイロ化していた顧客データや生産データ、在庫データなどを連携させて一元管理したりすることで、業務プロセス全体の無駄を徹底的に排除し、大幅な効率化を実現できます。

これにより、従業員は単純作業や繰り返し作業から解放され、より付加価値の高い、企画立案、顧客との対話、創造的な問題解決といった業務に集中できるようになります。結果として、組織全体の生産性が向上し、限られたリソースでより大きな成果を生み出すことが可能になります。

データ駆動型経営(DDDM)の実現

DX化の核心にはデータ活用があります。営業活動、マーケティング施策、製造プロセス、顧客サポートなど、企業のあらゆる活動から生成される様々なデータを収集・分析し、それを経営の意思決定に活かすことが可能になります。

これにより、経営者は過去の経験や勘といった主観的な要素に頼るのではなく、客観的なデータという根拠に基づいて、より精度の高い、迅速な意思決定を行うことができるようになります。このような経営スタイルは「データ駆動型経営(DDDM)」と呼ばれ、変化の速い現代の市場環境において、競争優位性を確立するための不可欠な要素となっています。

顧客体験(CX)の向上と顧客ロイヤルティの獲得

顧客の購買履歴、Webサイトでの行動履歴、問い合わせ履歴といった様々なデータを統合・分析することで、企業は顧客一人ひとりのニーズや嗜好、状況をより深く、そしてリアルタイムに理解できるようになります。

その深い顧客理解に基づいて、個々の顧客に合わせた最適な商品レコメンデーションを行ったり、パーソナライズされた情報やサポートを提供したりすることで、顧客体験を劇的に向上させることができます。画一的な対応ではなく、自分に最適化された心地よい体験を提供してくれる企業に対して、顧客は満足度を高め、長期的な信頼関係を築くようになります。

これは、継続的な売上の安定と、口コミによる新規顧客獲得にも繋がる、非常に重要な経営資産となります。

DX化が失敗する典型的なパターンと課題

多くの企業がDX化の重要性を認識し、様々な取り組みを開始していますが、その全てが順調に進んでいるわけではありません。残念ながら、十分な成果を出せずに計画が頓挫したり、形骸化してしまったりするケースも少なくありません。

DX化を成功させるためには、これらの典型的な失敗パターンを事前に理解し、それを避けるための対策を講じることが重要です。

「ITツールの導入」が目的化してしまう

最も多く見られる失敗パターンの一つが、DX化の本質であるビジネスや組織の変革という目的を見失い、最新のAIツールやクラウドサービス、あるいは特定のSaaS製品といったITツールを導入すること自体が目的になってしまうケースです。

経営層や現場から「何か新しいツールを入れなければ」というプレッシャーがかかり、目的や効果を十分に吟味しないままツール導入が進められます。しかし、ツールはあくまで変革を実現するための手段に過ぎません。

導入によって「どのような業務プロセスを変えたいのか」「どのような新しい価値を顧客に提供したいのか」という具体的な目的が明確でなければ、導入したツールが十分に活用されず、期待した費用対効果が得られない結果に終わってしまいます。

経営層のコミットメント不足とビジョンの欠如

DX化は、単なるIT部門や特定の事業部門だけの取り組みではなく、全社を巻き込んだ経営レベルでの改革です。そのため、経営層自身がDX化の重要性を深く理解し、「DX化によって、自社を将来どのような姿に変えたいのか」という明確で共感を呼ぶビジョンを示し、その実現に向けて強いリーダーシップを発揮することが不可欠です。

しかし、実際には、経営層がDX化の必要性を漠然と認識しているものの、具体的なビジョンを描けず、推進を情報システム部門や外部コンサルタントに丸投げしてしまうケースが少なくありません。経営層の本気度が伝わらなければ、各部門の協力は得られず、部門間の壁を乗り越えることもできません。結果として、DX推進の取り組みは十分な推進力を得られずに失速してしまいます。

既存の業務プロセスへの固執と現場の抵抗

DX化は、多くの場合、これまで慣れ親しんだ業務プロセスの変更や、新しいツールの習得を伴います。そのため、変化に対する現場の従業員からの心理的な抵抗に直面することは避けられません。「今のやり方で特に困っていない」「新しいことを覚えるのが面倒だ」「自分の仕事がなくなるのではないか」といった不安や反発が、変革の大きな障壁となります。

また、日本の多くの企業に根強く残る部門間の壁、いわゆる縦割り組織もDX化の推進を阻む大きな要因です。部門ごとにシステムやデータが最適化され、サイロ化しているため、部門を横断したデータ連携やプロセス改革を進めようとすると、各部門からの抵抗に遭うことが少なくありません。

これらの抵抗や壁を乗り越えるためには、DX化の必要性やメリットを現場に丁寧に説明し、変革への理解と協力を得るためのコミュニケーションが不可欠です。

DX推進を担うデジタル人材の圧倒的な不足

DX化の戦略を具体的に描き、多様なステークホルダーを巻き込みながらプロジェクトを推進していくためには、デジタル技術に関する知識と、ビジネスや組織変革に関する知見の両方を併せ持つ専門人材が不可欠です。

しかし、そのような高度なスキルを持つDX人材は、多くの企業において圧倒的に不足しており、外部からの採用競争も非常に激化しています。社内に適切な人材がいないため、DX化の計画が具体化しなかったり、あるいは戦略立案から実行までを外部のITベンダーやコンサルタントに過度に依存してしまい、結果として自社にノウハウが蓄積されず、持続的な変革に繋がらないといったケースも多いです。

DX化を推進するための具体的な7ステップ

DX化を成功に導くためには、場当たり的に個別のITツール導入を進めるのではなく、明確なロードマップに基づき、戦略的なプロセスに沿って段階的に進めることが不可欠です。ここでは、一般的なDX化の推進ステップを7つに分けて解説します。

Step 1:経営層によるビジョンと戦略の策定

全ての活動の起点となるのが、経営層が主体となり、「DX化によって、自社はどのような価値を顧客や社会に提供し、将来どのような企業になりたいのか」という明確で、従業員の共感を呼ぶビジョンと、それを実現するための具体的な戦略を策定することです。

このビジョンが、全社的な取り組みの方向性を定め、推進の拠り所となります。策定にあたっては、自社の強みや弱み、市場の機会や脅威を分析するSWOT分析などのフレームワークを活用することも有効です。

Step 2:DX推進体制の構築

DX化は部門横断的な取り組みとなるため、それを強力にリードできる推進体制を構築することが重要です。多くの企業では、経営層に近い位置にDX推進を専門とする部署を設置したり、各事業部門から選抜されたエース級の人材を集めたクロスファンクショナルなプロジェクトチームを発足させたりしています。

重要なのは、この推進組織に適切な権限と予算を与え、部門間の壁を乗り越えて変革を実行できる体制を整えることです。

Step 3:自社の現状把握と課題の可視化

次に、自社の既存の業務プロセス、利用しているITシステム、保有しているデータの種類や品質、そして組織文化や従業員のITスキルなどを客観的に評価し、現状を正確に把握します。アンケート調査や業務フローの分析、システム構成の棚卸しなどを行います。

そして、ステップ1で策定した理想とするビジョンと、把握した現状との間に存在するギャップを明確にし、そのギャップを埋めるために解決すべき具体的な課題を特定、可視化します。

Step 4:具体的なDX施策の立案とロードマップの作成

洗い出した課題を解決するための具体的なDX施策を、技術的な実現可能性や期待される効果、必要な投資額などを考慮しながら立案します。そして、立案した複数の施策について、「短期(例:半年以内)」「中期(例:1から2年)」「長期(例:3年以上)」といった時間軸を設定し、どの施策から着手するかの優先順位をつけた実行計画、すなわちロードマップを作成します。

ロードマップは、関係者全員が今後の進め方を共有するための重要なツールとなります。

Step 5:スモールスタートによる実証実験(PoC)

最初から全社規模での大規模な変革を目指したり、巨額のシステム投資を行ったりするのはリスクが高いため、まずは特定の部門や業務領域に限定して、小さく施策を試行する、いわゆる「スモールスタート」のアプローチが推奨されます。

PoCと呼ばれるこの段階では、導入しようとしている技術や新しい業務プロセスが、実際に自社で有効に機能するか、期待した効果が得られるかを検証します。ここで得られた具体的な効果や課題を基に、計画を修正していくことで、本格展開のリスクを低減できます。

Step 6:本格展開と効果測定

実証実験(PoC)で有効性が確認され改善された施策を、対象範囲を広げて本格的に展開していきます。例えば、特定の工場で導入した生産管理システムを、他の工場にも順次導入していくといった形です。ただし、導入して終わりではありません。

導入後も、あらかじめ設定したKPI(重要業績評価指標)に基づいて、その効果を継続的に測定し、評価します。期待した効果が出ていない場合は、その原因を分析し、さらなる改善策を講じるというPDCAサイクルを回し続けることが重要です。

Step 7:組織文化への定着と内製化

DXの取り組みを一過性のプロジェクトやイベントで終わらせず、持続的な企業変革へと繋げるためには、それを支える組織文化の醸成が不可欠です。データに基づいて客観的に意思決定を行う文化や、失敗を恐れずに新しい技術や働き方に挑戦することを推奨する文化を、組織全体に根付かせていく必要があります。

また、長期的には、外部のベンダーやコンサルタントに依存するのではなく、自社の内部にDXを推進できる人材を育成し、変革を自律的に継続できる体制、すなわち「内製化」を目指すことも重要な目標となります。

DX推進における組織と人材のあり方

DX推進を単なる掛け声で終わらせず、継続的な活動として組織に定着させるためには、それを支える適切な組織体制を構築し、必要なスキルを持った人材を育成・確保することが不可欠です。

DX推進部門の役割と責任

多くの企業では、DXを全社的に推進するための中核組織として、専門の「DX推進部門」を設置しています。この部門は、各事業部門と密に連携しながら、全社的なDX戦略の策定、個別プロジェクトの立ち上げ支援や進捗管理、そして部門間で得られた成功事例やノウハウの横展開などを担う、ハブとしての役割を果たします。経営層と現場をつなぎ、変革のエンジンとなることが期待されます。

求められるDX人材像と育成・確保の方法

DX推進には、特定のスキルだけでなく、複数の領域にまたがる多様な能力を持った人材が必要です。一般的に、ビジネスの課題を理解し戦略を描ける人材、AIやクラウドといった最新技術に精通した人材、そしてデータを分析し活用できる人材などが求められます。

これらの人材を確保するためには、まず社内でのリスキリングプログラムを実施し、育成することが重要です。これと並行して、即戦力となる外部の専門人材を中途採用したり、あるいは専門的なスキルを持つ外部企業と協業したりすることも有効な手段となります。社内外のリソースを最適に組み合わせることが、DX推進を加速させる鍵となります。

DX推進を加速させる国の支援制度

日本政府も、企業のDX推進を重要な政策課題と位置づけ、税制優遇や補助金といった様々な支援制度を用意しています。これらを有効活用することで、DX推進にかかるコスト負担を軽減できます。

DX投資促進税制

DXの実現に必要となる特定のデジタル関連設備(ソフトウェア、クラウドサービス利用費など)への投資に対して、税額控除(最大5パーセント)または特別償却(30パーセント)が受けられる制度です。企業の積極的なDX投資を税制面から後押しします。利用には、事業計画の認定などの要件があります。

IT導入補助金

主に中小企業や小規模事業者を対象として、SaaSなどのITツール導入にかかる費用の一部が補助される制度です。会計ソフトや受発注システム、ECサイト構築など、幅広いITツールが対象となります。DX化の最初の段階である、業務プロセスのデジタル化を支援する目的で設けられています。

DX推進の成功事例から学ぶ

実際にDX化を推進し、具体的な成果を上げている企業の事例は、自社の取り組みを考える上で非常に参考になります。

【業務効率化の事例】株式会社良品計画

無印良品を展開する良品計画は、全社的な業務改革プロジェクトを推進しています。その一環として、AIを活用した需要予測システムを導入し、店舗ごとの発注業務を自動化しました。

また、店舗と本部、そしてECサイトの情報を連携させる新たな基盤システムを構築することで、在庫の最適化と従業員の業務効率の大幅な向上を実現しています。

【新規事業創出の事例】SOMPOホールディングス株式会社

大手損害保険グループであるSOMPOホールディングスは、既存事業で培ったリスク管理能力やデータ分析能力と、デジタル技術を掛け合わせることで、社会課題を解決する新たな事業を次々と創出しています。

例えば、介護施設向けに、入居者の状態をセンサーでモニタリングし、介護記録を自動化するSaaS「egaku」を提供したり、ドライブレコーダーの映像をAIで解析して、安全運転を支援するサービス「DRIVE CHART」を展開したりしています。これらは、既存事業の強みを活かした「攻めのDX」の好例と言えます。

まとめ

本記事では、DX推進の正しい意味からその必要性、成功のための具体的なステップ、そして組織や人材のあり方まで、網羅的に解説しました。

DX推進とは、単なるITツールの導入ではなく、デジタル技術を前提としてビジネスモデルや組織文化までも根本から変革し、新たな競争優位性を確立するための、経営そのものの変革活動です。変化の激しい現代市場で企業が生き残るためには、もはや避けては通れない取り組みとなっています。

その推進においては、ITツールの導入目的化や経営層のコミットメント不足といった典型的な失敗パターンを避け、明確なビジョンに基づき、段階的かつ全社的に進めることが成功の鍵となります。DX推進部門の設置やデジタル人材の育成・確保も不可欠です。この記事が、貴社のDX推進を成功に導くための一助となれば幸いです。

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