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ERPとSAPの違いとは?世界シェアNo.1の理由や機能、他社製品との比較を解説

ERPとSAPの違いを明確に解説します。ERPは統合基幹業務システムという概念、SAPはその市場で世界シェアを誇るドイツ企業の製品名です。なぜSAPが選ばれるのか、主要モジュールの機能、OracleやDynamics 365といった他社製品との比較、そしてS/4HANAへの進化や導入プロジェクトの注意点まで、専門家が詳しく網羅します。

目次

  1. ERPとSAPの違いとは?
  2. SAP製ERPが世界中で選ばれる3つの理由
  3. SAP ERPの進化、歴史と製品ラインナップ
  4. SAP ERPを構成する主要な業務モジュール
  5. SAP ERPと他社ERP製品の比較
  6. ERP導入プロジェクトの進め方と注意点
  7. クラウドERPへのシフトと今後の展望
  8. まとめ

企業の経営基盤を支えるシステムを検討する際、必ずと言っていいほど耳にするのが「ERP」と「SAP」という言葉です。

しかし、これら二つの言葉が具体的に何を指し、どのような関係にあるのかを正確に理解できている方は意外と少ないかもしれません。ERPは企業資源計画を実現するためのソフトウェアカテゴリーを指し、SAPはそのカテゴリーにおける世界トップクラスのシェアを持つ特定の製品ブランドを指します。

本記事では、ERPとSAPの根本的な違いから、なぜ世界中の大企業がSAPを採用するのか、その圧倒的な強みの源泉を解き明かします。また、最新のS/4HANAへの移行の流れや、他社製品との徹底比較、導入に際しての成功の秘訣まで解説していきます。

ERPとSAPの違いとは?

ERPとSAPの違いを一言で表すと、ERPが「システムのカテゴリー(総称)」であるのに対し、SAPは「具体的な製品ブランド(固有名詞)」を指すという点にあります。この関係性は、よく自動車業界に例えて説明されます。

自動車という乗り物そのものがERPに該当し、トヨタやベンツといった具体的なメーカーやブランドがSAPに該当すると考えると分かりやすいでしょう。まずは、それぞれの言葉の定義を整理し、なぜ混同されやすいのかを探っていきます。

ERP(Enterprise Resource Planning)の定義

SAP(System Analysis Program Development)の定義

なぜ「ERP=SAP」と混同されるのか

ERP(Enterprise Resource Planning)の定義

ERPとは、日本語では「統合基幹業務システム」や「企業資源計画」と訳されるもので、企業の経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報を一元的に管理するための仕組みを指します。従来、企業では会計、人事、販売、生産といった各部門がそれぞれ独立したシステムを使用していました。

しかし、それでは部門間でデータの不整合が起きたり、情報の共有に時間がかかったりする問題が生じます。ERPはこれらの個別の業務システムを一つのパッケージとして統合し、全社共通のデータベースで情報を管理することを可能にします。

これにより、経営陣は社内の状況をリアルタイムに把握できるようになり、迅速かつ正確な経営判断を下せるようになります。現在では、単なる事務処理の道具ではなく、企業の競争力を左右する重要な経営インフラとして位置づけられています。

SAP(System Analysis Program Development)の定義

SAPとは、ドイツのワルドルに本社を置く欧州最大のソフトウェア企業、および同社が提供するERP製品群のブランド名を指します。1972年にIBM出身のエンジニアたちによって設立され、世界で初めて標準化されたERPパッケージを世に送り出したパイオニアです。

現在、SAPは世界190カ国以上で利用されており、大企業を中心に圧倒的な市場シェアを保持しています。SAP社の製品は、世界各国の複雑な商習慣や法規制に対応しているだけでなく、企業の成長に合わせて柔軟に機能を拡張できる点が最大の特徴です。

その実績の多さから「ERPといえばSAP」というブランドイメージが確立されており、世界中の企業のベストプラクティスが凝縮されたシステムとして信頼を集めています。特定の企業の社名でもあり、その主軸製品の名前でもあるということを覚えておきましょう。

なぜ「ERP=SAP」と混同されるのか

ビジネスの現場において、ERP導入の検討を「SAPを検討する」と言い換えたり、基幹システムそのものを「SAP」と呼んだりする光景がよく見られます。これは、SAPがあまりにも高い知名度と市場占有率を誇っているために起きた現象です。

例えば、接着テープのことを「セロテープ」、ステープラーのことを「ホッチキス」と呼ぶように、特定の登録商標が一般名詞のように使われている例は少なくありません。SAPは1990年代以降、世界のグローバル企業の標準システムとして普及したため、ERPという概念そのものと強く結びついて定着しました。

その結果、システムに詳しくない層だけでなく、IT部門の間でもERP導入の代名詞としてSAPの名前が使われるようになりました。しかし、実際にはSAP以外にも多くのERP製品が存在するため、正確には「ERPという大きな枠組みの中に、SAPという有力な選択肢がある」と理解するのが適切です。

SAP製ERPが世界中で選ばれる3つの理由

数多あるERPパッケージの中で、なぜSAPだけがこれほどまでに長期間、世界トップの座を維持し続けているのでしょうか。それは、単に画面が使いやすいといった表面的な理由ではなく、企業の根幹を支えるための設計思想に秘密があります。

SAPが選ばれる理由は、大きく分けて以下の3つのポイントに集約することができます。

データのリアルタイム統合(One Fact in One Place)

ベストプラクティス(標準業務プロセス)の活用

多言語・多通貨・多税制への標準対応

データのリアルタイム統合(One Fact in One Place)

SAPが世界に衝撃を与えた最大の功績は、一箇所で入力したデータが瞬時にシステム全体の関連箇所へ反映される「リアルタイム統合」を実現したことにあります。これを「One Fact in One Place(一つの事実は一つの場所へ)」という言葉で表現することがあります。

例えば、営業担当者が受注伝票を入力した瞬間、倉庫では在庫が引き当てられ、生産管理では材料の手配が必要かどうかが判定され、会計上では将来の売上が計上される準備が整います。従来のようにバッチ処理で夜間にデータを連携させる必要がなく、常に最新の数字に基づいて経営判断ができるようになります。

このデータの即時性は、在庫の過不足を防ぎ、キャッシュフローを最適化するために不可欠な要素です。各部門がバラバラの数字を見るのではなく、全社員が「唯一の真実」を共有できる環境こそが、SAPの提供する最大の価値です。

ベストプラクティス(標準業務プロセス)の活用

SAPには、世界中の優良企業が長年培ってきた「最も効率的な業務のやり方」が標準プロセスとして組み込まれています。これをベストプラクティスと呼び、導入企業はこれに自社の業務を合わせることで、短期間で世界基準の効率性を手に入れることができます。

日本企業に多く見られる「自社独自のやり方」をシステムで再現しようとすると、開発コストが膨らむだけでなく、非効率な業務が温存されてしまうリスクがあります。SAPを導入するということは、世界中で磨き上げられた業務の「正解」を採用することと同義であり、業務改革(BPR)を推進するための強力なツールとなります。

自社で一から業務フローを考える必要がなく、すでに実績のあるプロセスを導入できる点は、変化の激しい現代において非常に大きなメリットです。システムを導入するだけでなく、それを通じて組織を強くできる点が選ばれる理由の一つです。

多言語・多通貨・多税制への標準対応

グローバル展開する企業にとって、国ごとに異なる言語、通貨、そして法律や税制への対応は極めて大きな負担となります。SAPは世界中の主要な国の要件を標準機能として網羅しており、設定を変更するだけで各国の現地要件に適合させることができます。

他国の拠点のデータを統合管理したい際も、SAPであれば同じプラットフォーム上で情報を集約できるため、連結決算の早期化や全社ガバナンスの強化が容易になります。ブラジルやインドといった税制が非常に複雑な国においても、SAPは確実なローカライズを提供しており、これは他社製品には真似のできない圧倒的な強みです。

海外に子会社を持つ日本企業にとって、どこの国でも同じ品質のサポートが受けられ、現地の監査にも耐えうるシステムであることは、リスク管理の観点からも極めて重要です。この盤石なグローバル基盤があるからこそ、SAPは世界標準であり続けています。

SAP ERPの進化、歴史と製品ラインナップ

SAPは50年以上にわたる歴史の中で、その時代ごとの最新技術を取り入れながら進化を続けてきました。メインフレームの時代から始まり、インターネットの普及、そして現在のAI・クラウド時代に至るまで、製品の姿は大きく変わっています。

特に重要な節目となる主要な製品ラインナップを振り返ることで、現在の最新製品である「S/4HANA」がどのような背景で誕生したのかを理解することができます。

SAP R/3(アールスリー):ERPの普及期

1992年に発表された「SAP R/3」は、それまでのメインフレーム主体のシステムから、クライアントサーバーシステム(C/S)への移行を実現した画期的な製品でした。この「R」はリアルタイムを、「3」はクライアント、アプリケーション、データベースの3層構造を意味しています。

この製品の登場によって、PCからサーバー上のERPを操作することが一般的になり、日本でも1990年代後半から爆発的に普及しました。リアルタイム経営という言葉が現実味を帯び始めたのは、まさにこのR/3という製品が世界中のオフィスに導入されたことがきっかけです。

当時の大企業が競って導入したことで、日本におけるSAPの地位は不動のものとなりました。後のERPパッケージの標準モデルとなったこの製品は、現在でもERPの歴史を語る上で欠かせない伝説的な存在として知られています。

SAP ERP 6.0(ECC 6.0):長期間の標準機

2004年にリリースされた「SAP ERP 6.0」は、その後長年にわたって世界中で最も広く使われることになったバージョンです。以前は単一のパッケージだったものを、Webサービス技術を取り入れたプラットフォーム上で動作させるように進化させました。

この製品は通称「ECC(ERP Central Component)」と呼ばれ、会計や販売といった主要なモジュールが極めて高い完成度で統合されています。現在、多くの日本企業が「SAPを使っている」と言う場合、このERP 6.0を指していることが多く、保守期限の終了が迫る中で大きな課題となっています。

長期間使い続けられた理由は、それほどまでに機能が充実しており、安定していたからです。しかし、近年のビッグデータ活用やクラウド化の波に対応するため、いよいよ次世代のプラットフォームへの交代が求められる時期に来ています。

SAP S/4HANA(エスフォーハナ):次世代の主力

現在のSAP社が総力を挙げて推進しているのが、第4世代のERPである「SAP S/4HANA」です。最大の特徴は、独自の超高速インメモリデータベース「SAP HANA」を前提に設計されている点にあります。

従来のデータベースでは不可能だった膨大なデータのリアルタイム処理が可能になり、数時間かかっていた決算処理が数分で終わるような劇的なスピードアップを実現しました。また、データ構造を大幅に簡素化したことで、柔軟な分析やクラウド上での運用がよりスムーズに行えるようになっています。

オンプレミス環境だけでなく、SaaS形式での利用も可能になっており、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支える中核として位置づけられています。AIや機械学習との親和性も高く、単なる記録システムから、予測に基づいた意思決定を支援するシステムへと進化を遂げています。

SAP ERPを構成する主要な業務モジュール

SAP ERPの内部は、企業の各部門が行う業務に対応した「モジュール」と呼ばれる機能ブロックに分かれています。これらは個別に導入することも可能ですが、それぞれのモジュールが密接に連携していることがSAPの真の強みです。

主要な業務領域をカバーする代表的なモジュールは、大きく以下の3つのグループに分類することができます。

会計領域(FI/CO)

ロジスティクス領域(SD/MM/PP)

人事領域(HR/HCM)

自社のどの業務をシステム化したいかに応じて、これらのモジュールを組み合わせて導入するのが一般的な流れです。

会計領域(FI/CO)

会計モジュールは、SAPの歴史の中でも最も古くからあり、最も信頼されているコア機能です。外部報告用の決算書を作成するための「財務会計(FI)」と、社内の収益性分析や予算管理を行うための「管理会計(CO)」の二つに分かれています。

SAPの会計モジュールが優れているのは、ロジスティクス領域との強力な連動性にあります。モノが動くと同時にお金に関する仕訳が自動的に生成されるため、決算期末になって慌てて数字を合わせる必要がありません。

これにより、経営陣は常に正確な利益状況を把握できるようになり、部門別や製品別の収益性もガラス張りにすることができます。コンプライアンス遵守の観点からも、データの改ざんが困難なSAPの会計機能は、監査法人からの信頼も非常に厚いのが特徴です。

ロジスティクス領域(SD/MM/PP)

モノづくりや流通を担う企業にとって欠かせないのが、ロジスティクス関連のモジュールです。これには、得意先からの注文や出荷を管理する「販売管理(SD)」、原材料の購入や在庫を管理する「在庫購買管理(MM)」、そして工場の生産計画を司る「生産管理(PP)」が含まれます。

これらが連携することで、例えば受注が入った際に在庫があるかを確認し、なければ自動的に生産を依頼したり、材料を発注したりといった一連の流れがスムーズに行えます。サプライチェーン全体を一つのシステムで見渡せるため、在庫の無駄を省きつつ、納期回答の精度を上げることが可能になります。

製造業であればPP、商社であればSDやMMといったように、業態によって重視されるモジュールは異なりますが、これらが一体となって動くことで「モノと情報の流れ」が完全に一致するようになります。

人事領域(HR/HCM)

人事業務をサポートする「人事管理(HR)」または「人財資本管理(HCM)」モジュールは、従業員の情報を管理するための多様な機能を備えています。個人の基本情報だけでなく、組織図の管理、採用、配置、給与計算、勤怠管理といった広範な領域をカバーしています。

特にグローバル企業においては、世界中の拠点の従業員データを一つのフォーマットで管理できる点が大きな強みとなります。誰がどのようなスキルを持ち、どこの拠点にいるのかを把握することで、国境を越えた最適な人材配置や次世代リーダーの育成が可能になります。

近年では、より使いやすいユーザーインターフェースや高度な分析を求めて、SAP社のクラウド製品である「SuccessFactors」に移行するケースも増えています。しかし、いずれの形であっても、SAPの人事機能は企業の人的資本経営を支える強固なデータベースとして機能し続けています。

SAP ERPと他社ERP製品の比較

SAPが世界トップシェアを誇っているとはいえ、決して唯一の選択肢ではありません。現在では、特定の強みを持った海外製の競合製品や、日本の商習慣に特化した国産ERPなど、多種多様な選択肢が存在します。

製品選びにおいては、自社の規模、将来のグローバル戦略、そして予算を総合的に判断する必要があります。代表的な他社製品の特徴を以下にまとめます。

Oracle Cloud ERP(Fusion Cloud)

Microsoft Dynamics 365

国産ERP(GLOVIA, COMPANY等)

SAPと比較検討されることが多いこれらの製品について、それぞれの特色を掘り下げていきましょう。

Oracle Cloud ERP(Fusion Cloud)

Oracle社は、データベース分野での圧倒的な技術力を背景に、SAPの最大のライバルとして君臨しています。同社の「Oracle Cloud ERP」は、最初からクラウドでの利用を前提に設計されたSaaS型ERPであり、特に財務・会計分野に非常に強いことで知られています。

もともとデータベースに強みがあるため、大量のデータを処理する能力が高く、他システムとの連携のしやすさも魅力です。SAPに比べて比較的短期間での導入が可能であるとされており、完全なSaaS型として常に最新の機能が自動的に反映される点も、保守の手間を省きたい企業に支持されています。

グローバル対応力もSAPに引けを取らず、海外拠点への展開もスムーズに行えます。SAPの堅牢さよりも、クラウドの柔軟性や最新のテクノロジーへの適応スピードを重視する企業にとって、非常に有力な選択肢となっています。

Microsoft Dynamics 365

Microsoft社が提供する「Dynamics 365」は、普段使い慣れたOffice製品やTeamsとのシームレスな連携が最大の武器です。Excelのような感覚でデータを扱える操作性の良さは、現場ユーザーの抵抗感を下げる上で大きな利点となります。

中堅企業から大企業まで幅広く対応しており、ERP機能だけでなくCRM(顧客関係管理)機能も一つのプラットフォーム上で提供されています。企業の成長に合わせて、最初は会計だけを導入し、後から販売やCRMを追加するといったスモールスタートがしやすい点も魅力です。

開発環境も馴染み深い.NETなどの技術が使えるため、独自のカスタマイズを柔軟に行いたいというニーズにも応えやすい特徴があります。Microsoft製品で社内インフラを統一している企業にとっては、管理のしやすさも含めて非常に合理的な選択となるでしょう。

国産ERP(GLOVIA, COMPANY等)

富士通の「GLOVIA」やWorks Human Intelligenceの「COMPANY」に代表される国産ERPは、日本独自の商習慣や法規制に完璧に対応している点が強みです。外資系ERPではアドオン開発が必要になるような細かい帳票出力や複雑な手当計算も、標準機能でカバーされていることが少なくありません。

日本語のサポートが手厚く、日本のユーザーが好むきめ細やかな画面設計がなされているため、現場の使い勝手を最優先にする場合には非常に適しています。海外拠点があまりなく、日本国内の業務をより深く効率化したいという企業にとっては、高いコストを払って外資系を導入するよりも費用対効果が高くなる場合があります。

ただし、グローバルでの統合管理や将来的な海外進出を視野に入れている場合は、海外でのサポート体制や現地の税制対応などを慎重に確認する必要があります。国内特化かグローバルかという戦略によって、評価が大きく分かれる製品群です。

ERP導入プロジェクトの進め方と注意点

SAPのような大規模なERPを導入するプロジェクトは、単なるシステムの入れ替え作業ではありません。それは企業の業務プロセスや社員の意識を変える、巨大な変革のプロセスそのものです。

プロジェクトを成功させ、期待した投資対効果を得るためには、以下の3つのポイントを確実に押さえておく必要があります。

Fit to Standard(標準機能への適合)

業務改革(BPR)とのセット推進

パートナーベンダー(SIer)の選定

Fit to Standard

最近のERP導入における世界的な潮流が、この「Fit to Standard」という考え方です。これは、システムを自社の今の業務に合わせるのではなく、システムの標準機能に合わせて自社の業務を変えるという手法を指します。

日本企業はこれまで、自社のこだわりを反映させるために膨大な「アドオン(追加開発)」を行ってきました。しかし、過度なカスタマイズは導入コストを押し上げるだけでなく、将来のバージョンアップを困難にし、システムの柔軟性を奪います。最初から用意されているベストプラクティスをそのまま受け入れることで、低コストかつ高品質なシステム導入が可能になります。

どうしても譲れない業務以外は標準に従う、という強い意思決定が必要です。これができれば、システムは常にシンプルに保たれ、将来の技術進化の恩恵も受けやすくなります。

業務改革(BPR)とのセット推進

ERPを導入する最大の目的は、最新のITツールを入れることではなく、それを通じて業務を効率化し、経営を高度化することにあります。したがって、古い業務フローや非効率な商習慣をそのままシステム化するのではなく、導入を機に一掃する「BPR(業務プロセス再設計)」が不可欠です。

例えば、何重もの印鑑が必要な承認フローや、紙ベースの連絡業務など、システム化によって不要になるプロセスは多々あります。現場の「今までのやり方がいい」という声に流されず、あるべき姿に向かって組織を変革する覚悟が、経営層やリーダーには求められます。

業務改革を伴わないERP導入は、単に「高くつくデジタルな鉛筆」を手に入れるようなものです。導入を目的とするのではなく、導入後の理想的な働き方を描き、そこに向かって業務を再定義していく姿勢が成功を左右します。

パートナーベンダー(SIer)の選定

SAPの導入には、各モジュールの機能だけでなく、各国の会計基準や税制、技術的なアーキテクチャに精通した高度な専門知識が必要です。そのため、どのようなコンサルティング会社やSIer(システムインテグレーター)をパートナーに選ぶかが、プロジェクトの運命を決めると言っても過言ではありません。

自社と同業種での導入実績があるか、グローバル展開を支援できる体制があるか、そして何より自社の課題に真摯に向き合ってくれるかを厳しく評価する必要があります。単に言われた通りに開発するだけの業者ではなく、時には業務の観点からNOと言ってくれるような、伴走型のパートナーを選ぶべきです。

また、導入後の運用保守までを見据えた継続的なサポート能力があるかも重要なチェックポイントです。プロジェクトは稼働して終わりではなく、そこからがスタートだからです。信頼できるパートナーとの関係構築こそが、最大のプロジェクト管理と言えるでしょう。

クラウドERPへのシフトと今後の展望

ERPの世界はいま、10年に一度とも言える大きな転換期を迎えています。かつては自社内にサーバーを置いて運用する「オンプレミス」が当たり前でしたが、現在はあらゆる機能がインターネット経由で提供されるクラウドへと急速にシフトしています。

これからのERPがどのような方向に進んでいくのか、注目すべきトレンドは以下の3点です。

オンプレミスからクラウド(SaaS)へ

2層ERP(Two-Tier ERP)戦略

AIと自動化によるインテリジェント化

未来のERPは、もはや単なるデータの記録場所ではなく、自ら考えてビジネスを導く存在へと進化しようとしています。

オンプレミスからクラウド(SaaS)へ

現在、SAPを含む主要なERPベンダーは、クラウド版の提供を最優先事項としています。クラウドへ移行することで、企業はサーバーの調達やメンテナンスといったインフラ管理の負担から解放され、より戦略的な業務にリソースを集中できるようになります。

また、セキュリティ対策や法改正に伴うシステム更新もベンダー側が行うため、常に最新かつ安全な状態でシステムを利用できるメリットがあります。「所有」するシステムから、サブスクリプションで「利用」するシステムへの変化は、IT投資を固定費から変動費へと変え、財務的な柔軟性をもたらします。

かつてはクラウド上のデータ管理に不安を感じる声もありましたが、現在では世界最高水準のセキュリティを誇るクラウド基盤の方が、自社で管理するよりも安全であるという認識が一般的になっています。

2層ERP(Two-Tier ERP)戦略

「2層ERP(Two-Tier ERP)」とは、グループ全体で一つの巨大なERPを導入するのではなく、拠点ごとに役割の異なるシステムを使い分ける戦略です。例えば、本社の中心的な業務には堅牢なSAPを使い、小規模な海外支社や子会社には軽量で安価なクラウドERPを導入するといった構成です。

全ての拠点にSAPを入れると莫大なコストと時間がかかりますが、この戦略であれば重要なデータだけを統合しつつ、各拠点のスピード感や予算に合わせた運用が可能になります。ガバナンスを効かせたい本社機能と、機動力を重視したい現場機能のバランスを取る、非常に現実的な解として注目されています。

データの連携技術が向上したことで、異なるシステム間でもシームレスに情報を統合できるようになったことが、このトレンドを後押ししています。無理に全体を一色に染めるのではなく、目的に応じた「適材適所」のシステム配置がこれからの主流です。

AIと自動化によるインテリジェント化

今後のERPの最大の進化ポイントは、AI(人工知能)の組み込みです。これまでのシステムは、人間が数字を入力し、人間がそれを見て判断するものでした。しかし、次世代の「インテリジェントERP」では、AIが過去の膨大なデータを学習し、未来の予測や異常検知を自動で行います。

例えば、「このままだと3ヶ月後に材料が不足する可能性がある」といった警告を出したり、「最適な発注タイミングは今日です」と提案したりといったことが可能になります。ルーチンワークである仕訳入力や請求書の照合などはAIが自動化し、人間はより高度な意思決定や創造的な業務に専念できるようになります。

生成AIの活用によって、自然言語で「今月の売上予測をグラフにして」と指示するだけでレポートが完成するような世界も、すでに現実のものとなりつつあります。ERPは、企業の脳としての役割をさらに強めていくことになるでしょう。

まとめ

ERPとSAPの違いを理解することは、現代のビジネスITを把握するための出発点です。ERPという「統合基幹業務システム」という大きな概念の中に、SAPという世界トップシェアを誇る強力な製品が存在しています。SAPが長年支持されている理由は、データのリアルタイム性、世界基準のベストプラクティス、そして圧倒的なグローバル対応力にあります。

最新のS/4HANAへの移行やクラウド化の流れは、単なるシステムの更新ではなく、AI活用や業務効率化を加速させるDXの大きなチャンスです。導入を検討する際は、自社の戦略に合わせてOracleやDynamics 365といった競合他社とも比較し、Fit to Standardの精神でプロジェクトを進めることが成功への鍵となります。

ERPは一度導入すれば長く付き合う経営のパートナーです。その本質を正しく理解し、自社の成長を加速させるための基盤として最大限に活用していきましょう。

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